2024年12月23日( 月 )

米中貿易経済戦争の本質:5Gをめぐる主導権争い~HUAWEI(華為)に対する米国の対応から見える焦り(3)

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東洋学園大学教授 朱建榮 氏

HUAWEI問題の本質

 5Gをめぐる競争でどの国が強いのか。中国の専門家は2018年12月24日付の中国の学術サイト「觀察者網」に本格的な比較分析の論文を発表している。

 同記事は五つの分野で国際比較を行った。それによると、
A:国際的に統一的に採用されている5Gの標準について。中国は21項目、米国は9項目、EUは14項目、日本は4項目、韓国は2項目をそれぞれ持っており、中国が大幅にリードしている。   
B:5G設備に使われる中核部品チップについて。米国が優位を持っており、EUは衰退しているが、中国は力を尽くして追い上げを図っている、との構図。  
C:5Gの実用化に欠かせない通信システムの技術と設備(管理システム、運用センター、発信施設など)について。中国が圧倒的に強い。
D:価格競争力:中国も断然強い。
E:アフターサービス能力:これも中国が突出して強い。

 ちなみに、中国では2019年より、5Gの国内実用化が本格的にスタートすることになっており、それに関する知識普及は早くから主要メディアで行われている。たとえば、以下の二つの解説は、「5G」の原理、可能性について一般向けにわかりやすく説明している。

 一つは「財經頭條」サイト(2017年2月15日)に掲載された「什麽是5G,看完這篇文章就足夠了!」(5Gとは何か、この文章を読めばすべてわかる)という解説文。

 もう一つは「知乎」サイトに2018年8月16日付で掲載された「第一次有人把5G講的這麽簡單明了」(5Gを初めてここまでわかりやすく説明する)との見出しの文章である。 

 そして特に5Gの導入によって、社会がどう変わるか、産業システムにとってどのような「革命的」変化をもたらすか、これについて『人民日報』と『経済日報』という中国の二つのメジャー新聞はそれぞれ詳しい解説を掲載した。

 2018年11月22日付『人民日報』に掲載された「5Gの幕は切って落とされた それがどのように社会を変えるか」(5G大幕已啓 將如何改變社會?)と題する特集はまず次のような趣旨説明を書いた。

 間もなく到来する5Gの時代は、早いネットアクセスのスピードをもたらすだけではない。AI、無人運転、VRなどの未来技術の実用化の基盤を作り、Iot世界のドアを開ける。

 そして特集の中で特に米側の見方が多く紹介された。たとえば、
ホワイトハウスの次席技術補佐官Michael Kratsiosが18年10月25日の声明で「情報化の時代において、5G技術をリードする国が世界をリードする」「米国の優位を保つために5Gの開発にもっと資源を追加しなければならない」と述べたこと、アメリカの専門機関CTIAは、5G技術の競争において米国は全般として中国に後れを取っているが、積極的に取り組めば劣勢はまだ挽回可能、との報告書を出したこと。

 また、別の報告書によると、5Gの整備において中国の年間支出は米国より240億ドル多く、すでに35万個の通信スポットを持っているのに対し、米国は3万個未満だ、という。

 2018年12月29日付『経済日報』に掲載された、「新産業革命と高品質成長」と題する中国経済フォーラムで中国情報通信研究院総工程師余曉暉の基調報告の要約は5Gの経済社会に対するインパクトを次のように説明した。
「5Gは伝統的な産業システムに革命的な変革をもたらす技術であり、今後数年間、巨大な変化が起こりつつある」「Iotは新産業革命の重要な柱であり、5Gへの転換はIotの基盤になる」

 8億以上の中国人が見ているWeChat(微信)に流れた2019年からの中国全土における5Gの導入地域の順番、4Gとの「雲泥の差」およびその波及効果などに関する解説記事によると、2019年から次々と導入される中国の5Gの地域図はすでに確定しており、「中国の5G時代が本格的に到来した」と断言された。

 5Gの重要性、それをめぐる米中競争の勢力図が分かれば、アメリカがなりふり構わぬ手段でHUAWEIに代表される中国の通信技術企業を狙撃する焦りと凄まじさが見えてくる。

(つづく)

<プロフィール>
朱建榮(しゅ・けんえい)

1957年8月生まれ。中華人民共和国出身。81年華東師範大学卒業後、86年に来日。学習院大学で博士号を取得。東洋女子短期大学助教授などを経て96年から東洋学園大学教授。

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