2024年11月30日( 土 )

【中華人民共和国・何振良駐福岡総領事に聞く】『中国の視点』で見る貿易摩擦 望まれる「Win-Win-Win」の実現へ(中)

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中華人民共和国 駐福岡総領事 何 振良 氏

中国の先にある市場

 ―中国経済の発展、市場変化のスピードに対応できず、中国から撤退する日本企業も出てきました。一方で、世界トップシェアを誇るドローンメーカー・DJI(大疆創新科技有限公司)のように、最先端を行く中国企業も出てきています。

 何 その背景には、いくつかの原因があります。今まで日本と中国の経済協力のもと、「世界の工場」として製造業が盛んでした。安い労働コストを目指して日本の企業が中国に進出していましたが、経済成長とともに労働コストは高くなり、上海のオフィスの賃料は、東京とほぼ同じか、それよりも高い金額になっています。また、今まで必要とされてきた製品が必要とされなくなり、中国の社会経済レベルに合わせたものをつくらなければいけません。

 米中貿易摩擦の影響もあります。中国でつくりアメリカに輸出すると関税が高くなるため、工場を中国から移転するケースもあります。ただし、日本から中国への投資は増えています。日本総合研究所の藻谷浩介氏もいわれていますが、17年に日本が中国(香港、台湾含む)から稼いだお金は7.3兆円、韓国からは2.7兆円で合わせて10兆円です。これは日本の年間エネルギーコストに匹敵します。また、中国と取引している日本企業は5万社あり、うち3万社が中国に直接投資をしています。その95%以上が黒字です。

 中国と日本の貿易関係は非常に密接です。補完性が強く、たとえば、環境問題や高齢化問題など、日本から中国が学ぶことはたくさんあります。近隣国として良いものを教えていただきたいと思います。中国が悪くなっても、日本のメリットは何もありません。メディアが一方的に中国のことを悪く言っても何の問題解決にはならないのです。

 中国の高齢者人口は2億を超えています。日本の人口の約2倍です。IMFの予測では、人口減少によって、日本のGDPは40年後に25%減少するとされています。そういう状況を含めて、私たちが呼びかける「一帯一路」に日本も参加してもらって、一緒に、中国と日本の間の新たな経済協力の成長分野を掘り起こして発展していけば、中国と日本と第3国の「Win-Win-Win」が生まれます。

 18年10月、安倍首相が中国を訪れ、第3国を含めた52のプロジェクトに調印しました。これはかなり具体的な内容で会社の名前も記載されています。これまでの中国と日本の協議書にはこういうパターンはありませんでした。分野も非常に幅広く、金融、IT、エンターテインメントの人材養成まで入っています。

 18年11月、上海で第1回の「中国国際輸入博覧会」(輸入博)が開催されましたが、日本企業の数475社は世界で一番でした。そのなかで生まれた代表的な契約の例を挙げると、米卸の大手(株)神明(兵庫県神戸市)と中国の食糧貿易会社が日本米の輸出入に関し、5,000万元(約8億円)の契約を結びました。

 中国人の生活の質は向上し、日本の品質の高い製品への憧れが強まっています。良い生活には、食べ物を始め、さまざまなものが必要です。お米や果物、九州の和牛といった日本の誇る食べ物を中国に輸出し、中国から世界に広めて、たくさんの人々に食べてもらったほうが良いと思います。今回の輸入博の大きな目的の1つは、アメリカは一国主義だけど、対照的に中国はグローバル化に積極的だということを伝えることです。第3国市場を目指して中国と日本の経済協力がレベルアップし、Win-Winの関係が築けるようにしたいと思っています。

 ―中国へのビジネス進出に関するヒントをください。

 何 注目すべきは、急速に成長しているeコマースの活用です。中国でアリババが始めた若者向けのセールス「独身の日」(11月11日)では18年、アリババのTmall(天猫)の1日の取引額が約3.5兆円を超えました。習近平主席は「電子越境貿易を支持していく」と述べられています。今後もますます活発になっていくでしょう。

 ―中国経済のスピードは実際に目にしないとわかりませんね。

 何 中国からの訪日観光客は18年、計850万人以上が見込まれます。日本の方にもぜひ、中国へ足を運んでいただきたいですね。

 

(つづく)

【聞き手・文:山下 康太】

<プロフィール>
何 振良(か・しんりょう)

1967年生まれ。96年、中華人民共和国駐日本国大使館三等書記官として着任。以後、外交部アジア局副処長、同局日本遺棄化学兵器問題処理弁公室主任、駐日本国大使館公使参事官を歴任。2016年7月、駐福岡総領事に着任した。

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