大失敗の米朝首脳会談~南北コリアは政権崩壊の危機に立つ
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注目されていたベトナムでの第2回米朝首脳会談は、「合意見送り」に終わり、事実上、決裂した。事前の観測は、双方の楽観論に影響されていたが、両首脳の独断外交という深い溝に落ちた。十分な根回しをせずトップ会談を行ったツケが回ったかたちだ。この会談結果に、最も衝撃を受けたのは北朝鮮だ。
それは北の李容浩外相が、深夜の緊急会見を招集したことでも明らかだ。彼はトランプの発言に反論して「我々が要求したのは、(トランプがいうような)全面的な制裁の解除でなく、一部の解除だった」と述べた。トップ同士の会談で、誤解が生じたというわけだ。
この真相は現段階では不明だが、会談失敗の責任を外交当局が押し付けられる危険性を察知した動きである。
大々的な国内報道で会談を盛り上げてきた金正恩は、トランプの「背信」によって、頬を手酷く叩かれた。その威信が失墜するのは確実である。彼は側近の粛清という常套手段に出るだろう。その場合、李容浩は最初の犠牲者になる可能性がある。
最近の北朝鮮情勢をめぐっては、軍関係者による金正恩暗殺未遂事件が情報筋に流れるなど、国内体制は盤石でない。金正恩は米朝会談の失敗を受けて、再び国内締め付け、対外強硬策に出る恐れがある。
次に大きな衝撃を受けたのが、韓国の文在寅政権だ。
同政権は今回の米朝会談を経て、開城工業団地や金剛山観光事業の再開など南北経済協力を、制裁の対象外とする合意が得られると期待していた。
従って「合意なし」の結末は、韓国政府にとって最悪の結果である。文在寅大統領は「金正恩の代理人」と酷評されるなど、親北姿勢が強かった。北との協調による南北融和が彼の生命線だけに、今回の失態は政権の危機につながる緊急事態である。
この「会談大失敗」が、3・1独立運動100周年の前日だったのは、壮大な歴史の皮肉というしかない。
100年前、韓国の一部知識人・民衆は、ウィルソン米大統領の「民族自決主義」に煽られて、独立の声をあげた。もう1つの日本植民地だった台湾では、そのような動きはなかった。今回もコリアの両政権は、米国に振り回され、甘い夢を見、破綻した。
韓国経済はすでに危機的な状態にあり、今後、政権支持率が急落するのは確実である。そして韓国内では、司法、教育、メディア界に巣くった急進左派勢力が、南北両政権の危機に対応して浮上する公算が大きい。
釜山地裁は28日、民主労総釜山地域本部長から左派系の労働・市民団体が駐釜山日本領事館周辺で行進し、強制徴用労働者像の搬入を図るのを容認する決定である。
暴力事態が予想される現状を放置するという法治国家ではありえない国際常識に反した決定だ。
大法院判決など司法の左傾化はすでに指摘されてきたが、ここにきて、その動きがさらに顕在化してきた。
3・1独立運動100周年を控えて、左傾団体「全教祖」は、ソウル地域の小中高校113校の校歌が「親日派が作詞または作曲した」と主張した。全教祖と民主労総は文在寅政権の支持母体であり、北の金正恩政権との協調を謳う主導勢力だ。
朝鮮半島の現況は、米朝首脳会談の失敗でさらに混沌としてきた。
100年前の朝鮮半島の混乱は、その後、政府側が「文化統治」に転じたことで、平穏化した。日本の敗戦まで格別の過激な行動はなかった。しかし、今回は北に核兵器とミサイルがあり、南には急進左派勢力がいる。隣国としてコリアが舵取り不能な状態にあるのが、日本の100年後の姿である。
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連キーワード
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