2024年11月22日( 金 )

福岡を活性化させた傑物伝 アパマングループ代表大村浩次氏(6)

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業界や社会に役立つ企業を目指して

 大村社長は不動産業界がITを積極的に活用することで、顧客の利便性や、業界の質的向上を実現できると確信していたようだ。今から20年以上まえから、不動産業界がITを使いこなすことで、大量の不動産情報を提供できるだけでなく、新たなサービス、たとえば金融事業(決済や振り込みなど)や保険事業(保険や保証など)を他社と連携することで業界のサービスとして提供することができると考えていた。

アパマンショップネットワークを東京に設立

大村 浩次 氏

 引っ越しをするときに、アパートやマンションの部屋をインターネットで探すことは今でこそ普通になったが、当時はコンビニや書店にある賃貸情報誌をみて、不動産店舗をまわり部屋をさがす時代。大村社長は全国の不動産店舗をネットワークでむすびITを使って不動産業界をよくしたいという思いから、東京にも拠点をつくり、(株)アパマンショップネットワークを1999年10月に設立した。当時パソコンや携帯電話からインターネットで全国の部屋を探せるウェブサイトをつくっている会社は、アパマンショップのほかにはなかったのではないだろうか。

 大村社長は、パソコンや携帯電話の賃貸検索サイトと不動産店舗と賃貸情報誌で1つの賃貸物件の情報をオンタイムで共有できる日本で初めての「ASクライアントシステム」をつくり、特許を取得した。今では全国1,000店をこえるアパマンショップのブランド力から不動産賃貸会社としてのイメージが強いが、上場するころまでは売上の90%以上をITシステムの提供が占めていた。APAMANグループはもともと、不動産店舗やオーナーやユーザーを情報のネットワークでむすぶITシステムの企業だったのだ。

ITで不動産業界をよくしたい

 創業前から不動産や住宅の仕事をして、さまざまな現場をみて多くの課題を目の当たりにしてきた経験から、全国の不動産会社をネットワークでむすび、ITを使って賃貸物件の情報を共有してデータを活用できる今までにないサービスをつくることで、不動産業界をよくしたいという思いがあったという。この思いを実現して事業を大きく成長させて全国に広めたいと考えていた大村社長にとって、東京はビジネスのスケールが大きくて人や情報が集まることが魅力だった。

 また、21世紀になって世の中に広まりはじめたインターネットの力で、これからの不動産業界がおどろくほどに変わるという予感があったという。ITは絶えず早いスピードで進歩していて、多くの人に使われている技術やノウハウが古くなってしまうのもあっという間だ。そのためITを強みとする企業であるかぎり、業界のなかで何歩も先に進んだ方法をつくりだし、一番あたらしい技術を取りいれることが欠かせない。インターネットの時代を先取りするためには、東京に出てスケールの大きい情報を入手して大きな市場で勝負する必要があった。

 インターネットが普及していなかったころの不動産業界では、店舗のスタッフが1件ずつオーナーに電話やFAXで連絡を取って物件の情報を入手していたため、時間と手間のかかる作業を効率よくしたいというニーズがあった。そして業務上のやり取りで、多くの人件費がかかることも課題だった。2000年をすぎたころから多くの人がインターネットを使うようになり、不動産の店舗でも賃貸物件のデータベースを使ってお客さまの希望にあう部屋をさがして紹介するという流れが生まれてきた。アパマンショップの全国のネットワークは時代のニーズをつかんで大きな波にのり、2000年9月には直営店とフランチャイズ加盟(FC)店で合わせて300店舗をこえて急速に広がっていった。

不動産業界は情報が命

 不動産業界は情報産業といわれており、賃貸仲介会社・オーナー・入居希望者・賃貸管理会社をむすぶ情報が命だ。インターネットを使ってオンタイムで部屋の情報を全員で共有できるしくみをつくることで、新しい情報をすぐに伝えることができるようになり、それまでの人づてに聞いているため正しい情報が得られないという課題を解決した。新しい情報を正しく伝えるネットワークの仕組みをつくることで、部屋をさがすユーザーや不動産を管理するオーナーへのサービスの質を高めることができるようになり、不動産業界をよくしたいという思いを実現していった。

 またそれまでの不動産業界では、不動産賃貸会社がもっている情報は自社で仲介や管理している地元の物件のみだったため、自社でもっていない物件やほかの地域の物件を探すときは、ほかの不動産会社に相談して情報を共有してきた。しかし、ITを使って賃貸物件のデータを全国のアパマンショップのネットワークで共有することで、地域を限定することなく自社でもっている情報をこえて物件を紹介できるようになった。全国規模のスケールをもつ賃貸物件データベースから探して紹介できるしくみは、不動産店舗のサービスの質を大きく変えた。そしてユーザーにとっても一度に多くの部屋を探すことができて、希望にあう部屋が見つかりやすいサービスをつくることができた。

(つづく)
【取材・文・構成/石井 ゆかり】

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