2024年07月16日( 火 )

福岡を活性化させた傑物伝 アパマングループ代表大村浩次氏(7)

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ITを活用する研究会を開く

大村 浩次 氏

 大村社長は、親しくしていた全国の不動産賃貸管理会社の経営者を集めて、ITシステムやインターネットを使って不動産賃貸業界のサービスや会社経営をいかに良くしていくかについて、月1回テーマを決めて研究会を開いて話しあった。

 1990年代前半からインターネットが社会に広がりはじめてIT業界がいきおいよく成長し、IT関連企業の株価が上がるネットバブルがおこっていた。しかしIT業界以外の人にとっての当時のインターネットといえば、今でいうAI(人工知能)やRPA(業務自動化システム)のような存在だった。名前もシステムがあることも知られていたが、世の中全体では使っている人は少なかった。そして、インターネットやITをいかにビジネスに使いこなすかということは、ほとんどの人がまだ考えていない時代だった。

 ITを活用する研究会ではインターネットの仕組みを研究して、パソコンや携帯電話などの通信ができる端末とITシステムやネットワークを組み合わせて、10年後の不動産業界でどのようなサービスをつくっていくかを話し合った。また今では情報を集めた大きなデータベースをもつ世界的なIT企業が強い立場にあるが、インターネットを使う人がまだ少なかった当時から、情報を集めたデータベースをもつことが10年後には不動産業界でも大切になることを大村社長は見通していた。不動産の情報を集めてデータベースをつくることで、集めた情報を使ってユーザーのニーズにあう新しいサービスをいち早く生み出せるからだ。

 たとえばリアルタイムの賃貸物件の契約や入居の情報をもとに、入居率を高めるためにはどのようなサービスをしたらいいかを研究して、賃貸物件の紹介や管理のサービスに生かした。この取り組みは後に、アパマングループで年間100万組の来店につながっていく。

 また部屋さがしは引っ越しがあるため、たとえば福岡から東京に引っ越すなど住んでいるところから遠い場所の部屋をさがしているお客さまも多かった。しかし当時の部屋さがしで使われていた賃貸情報誌には近くの地域の賃貸物件しか載っていなかったため、遠いところに引っ越すときには何日も泊まりがけで部屋をさがしにいくなど、大がかかりになることも多かった。そのため、パソコンや携帯電話などから全国の部屋をさがせるインターネットのサイトを立ちあげて、遠くの場所から引っ越してくる人にも賃貸物件を探しやすい仕組みをつくった。

仲良く助けあい、業界をよくする

 ITを活用する研究会では、大村社長が議長として話をまとめ、参加者の賃貸管理会社の経営者とともに意見やアイデアを出しあった。当時の研究会をしていた仲間は今でもつき合いが深く、勉強会で話したことに限らず、これまでも業界のサービスや経営のことを親身になって話しあい、相談して、困ったときにはお互いに助けあってきたという。

 研究会を開いていた当時から賃貸不動産の管理も行っていたため、研究会の参加者の賃貸管理会社とは同業だったが、大村社長は同業者をライバル視したことはなく、不動産業界をよくしたいという強い思いから、ギブアンドテイクではなく見返りを求めないギブアンドギブの姿勢で研究会を開いていた。そして、どの不動産店舗でも生かせるアイデアを出しあってサービスを次々に良いものにして、ノウハウや成功体験を参加者の全員が共有して使えるように工夫をかさねた。

 大村社長はもともと人と競争せずにみんなで仲良くがんばるやり方が好きな性格で、ライバルと戦うことは好きではないという。ほとんどの参加者が人からの紹介で、この研究会にきていたことも、FC加盟店がいきおいよく増えていることも、事業内容のよさとITシステムを取り入れて業務が効率化されて喜ばれていることももちろんだが、大村社長の人柄に付いていきたいと決めた人も多いのではないだろうか。

フランチャイズ募集の説明会は10年以上行っていたい。

 研究会に参加していた同業の不動産管理会社は、後にアパマンショップのFC加盟店に入った。FCに加盟した会社は、すでに業界で経験をつんだ不動産店舗ばかりだった。

 また、アパマンショップ本部には創業から今日に至るまで、多くの加盟問い合わせがあるが、なんとその95%以上を断っているという。大村社長はその理由を次のように説明した「現在加盟いただいている方が業績を上げ、その後新規出店いただくことを望んでいる」現加盟企業が将来出店の可能性があるのであれば新規加盟を優先しないという考え方です。日本一の店舗数になった今でも既存加盟企業の新規出店と加盟企業からの紹介でアパマンショップの輪が広がることを望んでいます。

 交通の便がよくて全国をまわりやすく、どこにでもすぐに行って帰ることができる東京の土地柄を生かして、大村社長自ら、全国のFC加盟店を訪問して店舗オーナーと現場の情報を共有して話しあった。その数は年間300回をこえた。FC店舗の経営やお客さま対応のセミナーを開いてノウハウを伝え、グループで課題を共有して解決できるように店舗運営者を集めて会議し、すべてのことにスピード感をもって対応することで、FC店舗の全国展開を実現していった。

(つづく)
【取材・文・構成/石井 ゆかり】

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