2024年11月30日( 土 )

誤った人間活動が引き起こす地球の砂漠化!(中)

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アジア連合大学院機構 特任研究員 朝格吉拉図 氏

目に見えない人類にとって大切なものを忘れてはいけない

 ――中国に限らず全世界で、砂漠化の要因は、(1)気候的なもの(2)人為的なものの2つに分かれると言われています。

砂漠化の過程① 草が生い茂っている

 朝格 確かに、約5,000年~7,000年前まで遡れば、サハラ砂漠にも、大量の雨が降り、サバンナやステップの緑で覆われていたことがわかっているように、気候的な要因もあります。また、地史的な時間スケールでみれば、世界の主な砂漠は氷河の消長がもたらした砂漠化した土地ともいえます。

 しかし、近年の砂漠化の要因は、気候要因(約13%)というよりも人間活動による要因のほうが圧倒的に大きいと考えられています。内蒙古の例で言いますと、草地が砂漠に変化するのはたった10年と言われています。しかし、一度砂漠化してしまった土地を緑地化して草地に戻すのには最低でも約30年かかるのです。誤った人間活動が起こす環境破壊の影響は計り知れません。

砂漠化の過程② 草が中程度生えている 

 経済が成長していく過程で、地球環境が破壊され、北極の氷の溶解、黄砂の到来、PM2.5など数々の人類にとっての悪影響が出てきました。現実社会ではあらゆる分野で、目に見える利益が優先されるようになりました。(利益至上主義)しかし、そのことを過度に進めることによって、目に見えない「人類にとって大切なもの」があることを忘れてはいけないと思います。

 地球的規模で考えれば、そもそも人間の欲望は限りないので、抑制しなければなりません。また、近未来的、次世代のことを考えれば、「今だけ、自分だけ、金だけ」という現代の風潮は戒めるべきだと思っています。

乾燥農業から灌漑農業に切り替えた結果、土地が劣化した

 ――確かに現代の風潮「利益至上主義」は問題です。ところで、人間活動によって起こる砂漠化には具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

砂漠化の過程③ 草がほとんど生えていない

 朝格 人間活動による砂漠化を促進させている主な原因は大きく4つに分けられます。

 1つ目は、遊牧地における「過放牧」です。世界の砂漠化した土地の大半は放牧地のなかにあります。近年内蒙古で起きている砂漠化の典型例といえます。基本的に遊牧民が春夏秋冬の年4回の移住生活(パオという組立式の家で生活し、家畜を連れて、草の生えている場所へ移動した)を行うことによって、草原は広い範囲にわたって適切に利用されてきました。

 しかし、経済発展や国の政策の影響で、遊牧民は定住化に向かっています。定住化することによって、村や市が生まれ、インフラの整備も進み、生活レベル、教育レベル、健康管理も向上、住民は豊かになりました。とくに若者はこの進化に喜んでいます。しかし、一方で草地の緑が息を吹き返す時がなくなり、砂漠化に向かっています。水飲み場の周りには家畜が集まるので砂漠化しやすいのです。

砂漠化の過程④ 砂漠化

 2つ目は、近年の「地球温暖化」による砂漠化です。そもそも内蒙古は乾燥・半乾燥地域と呼ばれ、降水量よりも蒸発する量が多い地域です。それが地球温暖化によって増々乾燥化が促進されています。そこで、農民にとって絶対に必要な水の確保が、自然の状態では困難になっています。その結果、多くの農民が「乾燥農業」(灌漑を行わず、雨などの自然の降水・天水のみで水分を供給して営む農業)から「灌漑農業」(農地に外部から、地下水などを、人工的に供給することで営む農業)に切り替えています。灌漑農業にすると、飛躍的に収穫の量も増え、質も向上します。しかし、一方で、地下水がどんどん低下して、それに伴って、土地の質が劣化、悪化傾向(灌漑には塩類集積と土壌のアルカリ化という伏兵が潜んでいます)にあります。

近年は国や地方自治体の環境政策が進み、過剰伐採は減少

 3つ目は、森林伐採による影響です。木材は高く売れるので、過剰伐採が行われ、内蒙古でも、一時的に森林破壊が起こり、土地の劣化、砂漠化が進みました。しかし、近年は国や地方自治体の環境政策が進み、過剰伐採は減少の傾向に向かっています。

 4つ目は、近年の傾向として、内蒙古では放牧地における石炭開発で、土地の劣化、それに伴った周辺地域における環境の悪化、砂漠化が再び指摘されています。中国全体の電力としては、すでに再生可能な自然エネルギー、とくに太陽光発電、風力発電など、に大きく舵を切り、目覚ましい進歩があります。しかし、とくに黄河の北側領域などでは、まだ冬のマンションの暖房として、石炭が多く使われています。

 このほかにも、さまざまな鉱業資源の開発、交通施設や都市の建設も砂漠化に影響をもたらしています。いずれにしても経済成長や生活レベルの向上と環境を両立させるのは大変に難しいことです。しかし、私たち現代に住む人は未来に対する責任も背負っていることを忘れてはいけないと感じています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール> 
朝格吉拉図(ちょうかく・きつり)

 1980年中国内蒙古自治区通遼市生まれ。2010年東京農工大学大学院連合農学研究科修士課程修了。東京大学大学院農学生命科学研究科外国人研究生を経て、2017年筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了(環境学博士)。専門は地理学、地質学、惑星学など。筑波大学大学院生命環境系の研究員を経て、2018年4月よりアジア連合大学院機構 特任研究員。これまで地理情報システム(GIS)と環境リモートセンシング技術を駆使して砂漠化の解析や土地被覆の研究を行い、現在は「衛星リモートセンシング技術を用いたアジア地域における都市環境戦略に関する研究」を行っている。

 

 

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