誤った人間活動が引き起こす地球の砂漠化!(後)
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アジア連合大学院機構 特任研究員 朝格吉拉図 氏
植林をした後も、それを管理・維持していくことが必要
――砂漠化してしまった草地や、砂漠(極乾燥地)に緑を取り戻すにはどのような方法があるのでしょうか。
朝格 大前提として、砂漠(極乾燥地)を緑化することと、そのほかの地域の荒廃地を緑化することは、時間も方法も決定的に異なります。砂漠の緑化のためには、人間によってまったく新しい生態系を築き上げなければなりません。緑が極度に少ないのが砂漠の自然なので、どこからか、人間が水をもち込むことが必要です。
一方、砂漠以外の荒廃地では、導水しなくても降雨・天水によって、それがわずかな量であっても、緑が再生してくる潜在能力があります。
荒廃地を緑化する場合、3つの段階が考えられます。1つ目は、砂漠化する前の状態に緑を復元することです。2つ目は、復元した緑を利用してその土地の生産力にあった牧畜や農業を行うことです。3つ目は、砂漠化した土地の潜在的な生物生産力を増強しつつ、栽培システムを新たなものに置き換えて利用することです。
どのケースにおいても、「植林活動」は大前提で、最優先されるべきものになります。植林・対象地域は牧柵などで囲まれ、入場した場合には罰金などを定める場合もあります。しかし、鉄条網に羊などが入り、植えたばかりの草木を食べるのを放置し、さらに地元住民などがその地に入ってしまう例も少なくありません。
この問題の難しさは、植林をした後も、それを管理・維持していくことが含まれることです。そのためには、法律の罰則規定だけではなく、住民の意識を高める環境教育が必要になります。2000年代に入り、中国では、内蒙古に限らずそのような環境教育を重視しています。また、近年は中国国民が海外に行く機会も増え、それぞれの先進国で、環境教育など自ら学び、順守する、実践する傾向が高まってきています。
リモートセンシング技術は観測・評価に欠かせないもの
――話題を変えます。砂漠化の研究を進めて行くにあたって、リモートセンシング技術は欠くことのできないツールと言われます。その点を少し解説いただけますか。
朝格 リモートセンシングとは、対象物に触れることなく、物体が反射・放射する電磁波を遠隔から計測することにより、物体の形状、性質などを識別することができる技術です。植生分布の把握・地表面の形状、水域における水質・温度の推定、積雪量の推定、雲や雨などの気象状況の観測など、地球環境の観測・評価に欠かせないものになっています。
人工衛星に専用の測定機(センサ)を載せ、地球を観測することを衛星リモートセンシングと言います。代表的なセンサは2つあります。1つは、太陽の光の反射や放射を測る、光学センサです。太陽の光(人間の目に見えない紫外線や近中間熱赤外までを含む)が物にあたり反射した光を測り、また、対象物から放出している熱を測ります。
もう1つは、センサから発射するマイクロ波を使って、対象物が反射するマイクロ波を測る能動型マイクロ波センサです。自らマイクロ波を地球に向けて発射し、対象物から反射されて戻ってくるマイクロ波を測ります。マイクロ波は霧の影響が少ないので、光学センサでは困難な「夜間」や「悪天候時」にも観測できるという特徴があります。
世界の研究者の多くはNASAの提供する画像を使っています
これらの画像は米国航空宇宙局(NASA)、日本であれば宇宙航空研究開発機構(JAXA)など国単位で管理されています。世界の研究者の多くは、解像度の高い、NASAの提供する画像を使っています。
電磁波に見られる物質固有の波長特性をスペクトル特性(分光特性)と言います。このスペクトル特性に着目すれば、そこが水面なのか、土壌なのか、あるいは植生が存在している場所なのかを判別することができます。最新の衛星画像の解像度は、地上画素寸法は40cm~30cmとも言われています。
「以人為本、教育為先」の教えに学び環境教育を強化する
――時間になりました。本日の話を、自然科学、社会科学の点から少しまとめていただけますか。
朝格 地球の砂漠化とは、物理的、生物的、政治的、社会的、文化的そして経済的な要素が複雑に関わりあって生じた問題です。そのため、技術的アプローチと社会・経済的アプローチの双方から考える必要があります。そして、対策の効果が出るまでには時間がかかるので、十分な実施期間を確保する必要があります。日本の環境技術(下水道技術やごみ処理・再生技術など)は、大企業はもちろん、中小企業も含めて、世界の先頭に立っています。内蒙古の大学や自治体に協力をいただき、Win-Winの関係が構築できればと考えています。
最後に、中国には「以人為本、教育為先」という諺があります。天下第一でも経済第一でもなく「人間を基にし、教育を最優先する」という意味です。地球の砂漠化をなくすためには、環境問題に対する国民の意識を高める教育の必要性を実感しています。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
朝格吉拉図(ちょうかく・きつり)
1980年中国内蒙古自治区通遼市生まれ。2010年東京農工大学大学院連合農学研究科修士課程修了。東京大学大学院農学生命科学研究科外国人研究生を経て、2017年筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了(環境学博士)。専門は地理学、地質学、惑星学など。筑波大学大学院生命環境系の研究員を経て、2018年4月よりアジア連合大学院機構 特任研究員。これまで地理情報システム(GIS)と環境リモートセンシング技術を駆使して砂漠化の解析や土地被覆の研究を行い、現在は「衛星リモートセンシング技術を用いたアジア地域における都市環境戦略に関する研究」を行っている。関連記事
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