病院をなくすことが患者の意識改革につながる 医者の価値観を患者に押し付けてはならない(中)
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東京有明医療大学 保健医療学部鍼灸学科 教授 川島 朗 氏
―予防のためには医療提供体制の見直しも必要ですが、本人の意識をどう変えていくか、ここが一番の問題ですね。
川嶋 人工知能(AI)のデータで面白い実態が浮かび上がっています。10年程前に夕張市が財再破綻しましたが、これにより夕張市立総合病院が閉院を余儀なくされるなど医療崩壊が始まり、病床数は10分の1までに減りました。しかし、夕張市民の死亡総数と死亡率を見てみると、病院閉鎖前後でほとんど変化がありません。実は、夕張市の健康寿命は逆に延びているのです。なぜなら、体調が悪くなっても簡単に病院に行けないので、市民の間に健康意識が高まってきたからです。
一般に高齢者の方は、いくつもの病院や診療所を受診する傾向があり、服薬するクスリの種類や量も多くなっています。多剤服用のなかで害をなすものをポリファーマシーと呼んでいますが、医療機関にかかりにくくなったことで、結果的に薬物有害事象のリスクが減ったことも健康寿命の延伸につながったのではないでしょうか。受診する機会が減ったことは医療費の無駄を削減することにもなっているのです。
つまり、「病院をなくすことが患者の意識改革につながる」。これが、AIが導き出した結論です。がんになると頑張り出すのは死に直面して、危機感が芽生えるからですが、これと同じで、病院がなくなれば医者に頼れなくなるという危機感が生まれてくるのです。
そこまでいかなくても、普段から「予防しよう」「健康づくりを行おう」という意識に変われば、国民の財産である医療財源を守ることができるのです。私は、増え続ける社会保障費を赤字国債で賄い、あとの世代にツケが先送りされ続ける状況について、「孫名義のクレジットカードを祖父母が使いまくっているようなもの」と表現して注意を促しています。平成初期は250兆円程だった赤字国債は、今や1,000兆円を超えるまでになっています。このままだと日本全体が夕張市のような状況に陥ってしまうのです。
―患者の医療行動の問題の1つに、軽症でも医療機関を受診することが挙げられます。たとえば、風邪などは、市販薬を買うよりも医療機関を受診した方が安いこともあり、大病院を受診する傾向がいまだにあります。
川嶋 私の外来にも風邪をひいたと言って来られる方がいます。一般の方には知られていませんが、症状を抑えるクスリはあっても風邪そのものを治すクスリは存在しませんし、エビデンスもありません。ですから、本来なら風邪に医療保険を使うべきではないのです。現実はなかなかそういきませんが、理論上はそういうことになります。
風邪をひくと鼻水、発熱などの症状が出ますが、人の身体はウイルスに対する抗体を産生することで、炎症をおさめて症状を治そうとします。これを抗病反応と呼んでいます。ですから熱が高いのは血流を良くして免疫力を高める生体防御反応なので、解熱剤などを服用して熱を抑えると一時的に症状を抑えてもウイルスそのものは排除できません。免疫反応は体温が少し高い方が活性化されるため、ある程度耐えられる熱であれば解熱剤は控えた方が治りは早いのです。
日本呼吸器学会のホームページに掲載されていますが、「ウイルス性のかぜ症候群であれば、安静にして、水分と栄養補給により自然に治癒するため、ウイルスに効果のない抗菌薬は不要」としています。病院で風邪薬が処方されるのは、つらい症状を和らげることで体力の消耗を抑え、身体がかぜを退治する手助けをすることですから、風邪そのものを治すというエビデンスは存在しないのです。エビデンスの存在しない医療に健康保険を適用するのはルール違反ともいえるのではないでしょうか。
エビデンスに基づく医療は、あと10年もすればAIに取って代わる時代になるかもしれません。AIは10分程で2,000万報の論文を読み込んでしまいますから、人間は太刀打ちできません。画像診断もAIなら病変を見落とす心配がありません。つまり、EBM(エビデンス・ベイスド・メディシン=根拠に基づく医療)の医療はAIで事足りてしまうのです。内科の場合、人間の医者がやることといえば、恐らくエビデンスのない医療を含めてオーガナイズすることだと思います。近い将来に、医者の大失業時代がくるかもしれません。
(つづく)
<プロフィール>
川島 朗(かわしま・あきら)
東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授。東洋医学研究所付属クリニック自然医療部門医師。医学博士。北海道大学医学部卒業。東京女子医科大学大学院医学研究科修了。Harvard Medical School&Massachusetts General Hospital留学。東京女子医科大学腎臓病総合医療センター内科&血液浄化療法科講師、准教授、東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック所長を経て現職。日本内科学会認定総合内科専門医、日本腎臓学会学術評議員・認定指導医、日本透析医学会認定専門医、日本ホメオパシー医学会理事・認定専門医、日本東方医学会理事・学術委員、日本予防医学会理事、日本抗加齢医学会評議員、日本医工学治療学会評議員、国際生命情報科学会理事、NPO統合医療塾塾頭。
主な著作に「心もからだも『冷え』が万病のもと」(集英社新書)、「58歳からの人にはいえない体の悩み」(講談社)、「病気にならない体をつくるドライヤーお灸」(青山出版社)、「一生毒をためない生活」(永岡書店・文庫)、「『見えない力』で健康になる」(サンマーク出版)、「川嶋流がんにならない食べ方」(小学館101新書)、「代替医療で難病に挑む」(ペガサス)など。
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