健口から健康へ(6)唾液のパワー~健康を導くキーワードは「唾液」~

 こんにちは、歯科医師の大村豊です。「健口から健康へ」第6回は、口腔と全身の健康を支える「唾液」に注目します。唾液は単なる水分ではなく、健康状態を示す重要なバロメーターです。ストレス社会では分泌が低下しがちですが、工夫次第で改善可能です。唾液のパワーを探ってみましょう。

ストレスと唾液の関係

 現代社会は仕事や人間関係のストレスに満ちています。ストレスによって唾液分泌が減少しやすいことをご存知でしょうか。ストレスがかかると自律神経のバランスが崩れ、唾液腺の働きが抑制され、口が渇きやすくなり、全身の健康にも悪影響をおよぼします。

 対策はシンプルです。自律神経を整えるため呼吸法を意識してみましょう。とくに「鼻呼吸」がおすすめです。意識的に息を長く吐くことで交感神経の興奮を抑え、副交感神経が優位になり、唾液分泌量を自然に増やす効果が期待できます。毎日の習慣に取り入れてください。

 また最近の患者さんに顎関節症の症状が増えています。自覚症状がない場合も多く、これはストレスが原因の顎関節症です。顎の可動域が狭くなると唾液の流れも滞りがちになります。そこで有効なのが「舌のストレッチ」です。舌を動かすことで顎関節の柔軟性が向上し、唾液分泌量が増加します。これらの簡単なエクササイズで口腔の健康を守りましょう。

口臭の意外な原因

 口臭は多くの人が悩む問題ですが、その発生メカニズムは唾液減少と深く関わっています。唾液分泌が少なくなると口内の細菌が増殖し、これらが産生する揮発性硫黄化合物(VSC)などが口臭の主な原因となります。とくに睡眠中は生理学的に口腔が乾燥しやすく、唾液分泌量が極度に低下します。さらに口内のpH値も下がり、細菌の温床となります。

 口臭は心因的なストレスだけでなく、姿勢の悪さなど身体的要因でも引き起こされます。たとえばデスクワークで前かがみの姿勢を続けると唾液の循環が滞り、口臭が強くなることがあります。一方、健康な唾液には優れた自浄作用や酸中和作用があり、口内のpH低下を防ぎます。これにより虫歯や歯周病の予防にもつながります。

悪循環を断ち切ろう

 ストレスを受けると唾液分泌が減り、口が渇きやすくなります。この状態が続くと血圧上昇や不眠を引き起こし、降圧薬や睡眠薬を服用する人も少なくありません。しかしこれらの薬の副作用で口の渇きがさらに悪化し、悪循環に陥ります。

 口腔の健康を守るには、まずストレスの根本原因にアプローチし、唾液分泌を促す生活習慣を築くことが重要です。前述の呼吸法や舌のストレッチを日常に取り入れることで、薬に頼らず健康的な口腔環境の維持が期待できます。

 唾液は私たちの健康を守る重要な役割を担っています。ストレス社会の現代だからこそ、唾液分泌を促す生活習慣を意識的に取り入れることが大切です。鼻呼吸や舌のストレッチといった簡単な方法で、口腔内だけでなく全身の健康向上につながります。

Let's Try! Tongue Stretching.


歯科医師 大村豊(おおむら・ゆたか)
大村歯科クリニック 歯科医師 大村豊 氏1964年3月23日福岡県柳川市生まれ。福岡歯科大学卒業後、大学院で舌の発生学を研究。2002年10月に福岡市百道浜で大村歯科クリニックを開業し、予防歯学を重視した診療を展開。オーラルフレイルに早期から着目し、独自の口腔機能向上プログラムを通じて患者の生活の質向上を図る。現在も「口の健康が全身を支える」という信念のもと、研究と臨床の両面から口腔ケアの重要性を訴え続けている。

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