2024年11月23日( 土 )

【検証】関空連絡橋衝突事故を振り返る~未曽有の衝突事故は防げたのか(5) 日之出海運(株)・清水満雄社長に聞く

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

報告書の内容について

 ――報告書の内容については、どのように感じられましたか?

清水 満雄 社長

 清水 まずは、まえがきにも書かれておりますが、この報告書の目的は、「被害の原因を究明し、事故防止および被害の軽減に寄与することを目的としたものであり、事故の責任を問うために行われたものではない」ということをご理解いただきたいです。そして報告書の中身をきちんと読んでいただければ、これまで私が述べてきたことが真実であるということが証明できると思います。

 今回の報告書では、事故調査委員会が定める4段階の表現のうち、おもに3番目の「考えられる」もしくは4番目の「可能性が考えられる」という、断定の度合いが弱い表現が多く使われております。そういった観点でこの報告書を読むと、事故調査委員会も事故の原因を断定はしていないのだと、私は捉えています。

 ――真実が証明されたと考える部分は、具体的にはどの点についてでしょうか?

 清水 3マイル推奨の件や海上保安庁とのやり取りについての件です。3マイル推奨の件については、第五管区海上保安本部が「走錨海難を防止しよう」というリーフレットをホームページ上で掲載しておりますが、このリーフレットの存在については船長も私も知りませんでした。運航主である鶴見サンマリン、関空サイドも、このリーフレットの存在を「知らなかった」としていますし、衝突事故が発生する前の8月23日、台風20号が通過した時は、海上保安庁の船も関空島周辺海域に錨泊しております。

 報告書の49ページの再発防止策の中で、「海上保安庁は、それぞれの海域の荒天時における錨泊実態や地形など海域を取り巻く環境に関する情報及び実施される対策等について、事前により多くの関係者に周知を徹底すること」としているのは、今回の衝突事故前の関空島周辺では、3マイル推奨が周知されていなかったことの証明でもあると思います。海上保安部の船だけでなく、過去には大型フェリーも錨泊していたことから、関空島から3マイル以上離れて錨泊することはあくまでも「推奨」であり、「強制」ではなかったことは、当初から私は述べておりましたし、御社にもそのようにお伝えしていました。

 宝運丸と海上保安庁とのやり取りについては、事故直後の一部報道で、「海上保安庁が2度にわたる警告を発していた」「2度にわたる警告にもかかわらず、3マイル以内にとどまっていた」などと報じられました。しかし、報告書の3ページから5ページ目の海上保安庁と宝運丸とのやり取りの内容を見ていただければ、「走錨回避をするための協力動作的なやり取り」であったことや、海上保安部が錨泊地を変更するよう、指示や警告を発していなかったことはおわかりいただけるかと思います。

 ――報告書が公表されたタイミングで各社が一斉に報じました。各社で論調に違いがみられますが、ご覧になってどのように感じられましたか?

 清水 事故原因に関しては、当時の船長の判断や当社の情報共有の体制に問題があると受け取られるような内容だと思いました。しかし一方で、事故調査報告書の冒頭にある要旨だけを読んで報道しているとも感じました。事故当時と比べると状況は落ち着いていますが、結果的に事実と違う部分が報じられたことについては、不本意でもあります。

 ――一報告書の34ページから40ページにかけて、宝運丸がどのようにして走錨に至ったのかを考察するために、いくつかのケースを設定したうえで、走錨を防ぐことができたのかが書かれていました。「この事故は防げたのか?」という観点から見たシミュレーションです。

 清水 ケース6が事故直前に一番近い状態で、この際の最大瞬間風速は58.1mと記されています。ではケース6の設定で走錨を防げたかというと、38ページには、「走錨による圧力が止まらない結果となった」とあります。走錨を回避する手段として、走錨直後の状態と思われるケース1、ケース5、ケース6で双錨泊を行った場合はどうだったかというと、双錨泊とした場合の限界係駐力は単錨泊時を上回るものの、「いずれのケースでも走錨による圧流が止まらない結果となった」となっております。

 昨年12月20日に発表された運輸安全委員会の中間報告では、走錨しない為の方法として、「双錨泊を基本とすること」とまとめられておりました。運輸安全委員会の主たる目的は事故防止と対策ですし、実際に双錨泊を用いることで走錨を防いだ船の事例も紹介されていますので、今後の事故対策として双錨泊を推奨することを否定するつもりはありません。しかし、シミュレーション上とはいえ、「いずれのケースにおいても、双錨泊を用いたにもかかわらず走錨してしまった」という結果が出ております。

 シミュレーション上では、あの場で双錨泊を用いたとしても、走錨は防げなかった可能性が高いとしているわけですから、単錨泊が原因として挙げるのは不適切だと思います。

(つづく)
【長谷川 大輔】

(4)
(6)

関連キーワード

関連記事