日本経済の飛躍のカギ“水力(ウォーター・パワー)”(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
資源小国がもつ燃える水
地球上の生命は水を介してすべてが循環している。この水の流れを滞らないようにすることが、生命体である人間にとっても地球にとっても欠かせない。水そのものを大切にするのは当然であるが、加えて、水を生かす生き方をどこまで実践できるかどうかが、今、我々に問われている。
我が国は国土面積の大きさでいえば、世界第66位の38万m2に過ぎない。しかし、排他的経済水域(EEZ)という視点で見れば、日本の海域面積は国土の約12倍に当たる405万m2にも達する。これは世界第6位の「海洋大国」であることを意味している。
改めて世界地図を見ていただきたい。近年、中国や韓国との間で尖閣諸島や竹島の領有権が問題になっていることはご承知の通り。確かに、中国や韓国の先を遮るように日本列島が南から北へ弓状に伸びており、その先の太平洋上の領海とEEZを日本が独り占めしていることがよくわかるはずだ。出口を塞がれたかたちになるわけで、中国や韓国がいら立つのも無理からぬ話かもしれない。
とはいえ、問題はこの広大な「日本の海」をどう活用するかということ。「海からの贈り物」は豊かな海産物や潮流発電に限らない。実は、日本が必要とする未開発のエネルギー資源が何百年分も眠っているのである。それこそ「燃える氷」と呼ばれる天然ガスの一種、メタンハイドレートに他ならない。燃やしてもCO₂の排出量が天然ガスの3分の1以下といわれ、地球温暖化対策にも効果的な資源であることは間違いない。
2010年に建設会社やエンジニアリング企業が中心となって立ち上げた日本プロジェクト産業協議会によれば、「日本のEEZ内に眠るメタンハイドレートの商業価値は120兆円に達し、海底熱水鉱床は80兆円になる」とのこと。そして、それぞれが年間5万4,000人、3万5,000人の雇用を生むというから心強い。
「資源小国」と見なされてきた日本にとっては夢のような話である。政府が資金を提供し、メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21)が中心となり、2013年には和歌山県の沖合で世界初の海洋産出試験が行われた。残念ながら、その試掘ではサンドフィルターに大量の砂が流れ込み、船上の生産水タンクにも砂が混入したため、予定された試験を中断することになった。
そもそも海底に薄く広がるメタンハイドレートは、穴を掘れば噴出する天然ガスなどと比べれば採取が難しく、コストも高いといわれる資源。そのため、南海トラフを始め、日本近海には大量に賦存すると推定されているのだが、なかなか商業化が進まなかった。もちろん、掘り出す技術に関して、日本は世界の最先端を走ってきた。カナダの永久凍土での試掘に際しては、アメリカやドイツの企業が舌を巻く結果を出したものである。
しかし、海底からの採取には困難な課題がいまだに立ちふさがっている。こうした課題を克服すべく、日本政府は2002年から2017年までに1,000億円を超える研究開発費を投入。ようやく2017年5月、南海トラフでの採取に成功した。もちろん、本格的な実用化にはまだまだ険しい道のりが待っており、「早くとも2023年から2027年」が想定されるとのこと。とはいえ、官民一体となった技術開発や海底の環境保全への取り組みが進んでおり、日本が海洋資源大国へ名乗りを上げる日もそう遠くないことを期待したいもの。
いうまでもなく、このメタンハイドレートには世界が注目し、その資源開発には各国がしのぎを削っている。アメリカも日本との協力で開発レースに参戦していたが、シェールガスが国内で利用できるようになったため、メタンハイドレートへの関心は当面薄れた模様。
その間、急速に開発競争に加わってきたのが中国である。2017年5月、日本が採取に成功したのと機を同じくし、中国は南シナ海での採取に成功したと発表。中国政府は「2030年までの商業化を目指す」との打ち上げ花火も同時点火。日中間で、新たな資源開発レースに拍車がかかることになりそうだ。
期待される日本のエネルギー革命
日本の国内問題はいうにおよばず、国際社会の安定化に貢献するために、また、「地球の公共財」と言っても過言ではない海洋資源の共同開発を積極的に進めることは、我が国にとって挑戦し甲斐のある分野だ。
我々はこれまで培ってきた自然界との調和を重視する生き様を、これからの時代のビジネスモデルとなるように進化させねばならないだろう。次世代に人類共通の資源をバトンタッチするためにも、無限に近いエネルギーを秘めた海洋と太陽の力を活用しない手はない。再生可能エネルギーとしては、太陽光や風力を源とする発電は急速に利用が進んでいるが、海洋資源の活用はまさにこれからである。
東日本大震災の影響で原発事故に見舞われた日本とすれば、自然再生エネルギーの活用に舵を切るのは当然の流れであった。森林大国でもある日本としての「小水力発電」に加え、海洋資源大国としての「メタンハイドレード」や最近注目の「レアアース泥」によるエネルギー革命に先鞭をつけるのは日本の使命といえるだろう。日本の“ウォーター・パワー”が世界の環境、食糧、エネルギー問題の解決への切り札になることを切に願う。
(了)
<プロフィール><プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。【未来トレンド分析シリーズ】の記事一覧
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