2024年12月22日( 日 )

奇妙な違和感―過失犯の処罰~関空連絡橋衝突海難事件

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 衝突艦船の元船長が海上保安庁により9月27日に書類送検された。同時に同事故の第1回海難審判が10月9日に開催されるとも報道された(宝運丸元船長を書類送検~関空連絡橋衝突事故)。

 海上保安庁も海難審判所も国土交通大臣の所轄行政機関である。海保は元船長の犯罪行為(過失往来危険罪)について証拠に基づき犯罪行為を認定し、刑事処分を求めて検察庁に書類送検した。

 一方、海難審判所も証拠に基づき元船長に懲戒処分の可否を判断する。海上保安庁法では海上保安庁と海難審判所の重複業務執行を排除するために同法第5条第1項第4号において、海上保安官の業務について海難審判所の審理事項を除外している。文言どおりに解釈すれば、海上保安庁の書類送検行為は違法行為である。何よりも海難審判所に対して予断を与える行為であり不適切行為となるからである。国土交通大臣は最初から元船長の処罰ありきの手続を進めているとの非難に値する。

海難事故の事実認定の困難性

 一般の海難事故においてさえ、事故の正確な原因究明(責任判断)は困難である。その事実を前提に海難審判所が設置され、船長の懲戒処分として免許取消、業務停止、戒告の3種の懲戒処分を規定している。本件事件は天災(強力な台風)状況下に発生した海難事故であり、元船長の具体的な行為と具体的な状況について客観的な証拠に基づく認定が一層不可能な状況にある。

 その明白な証拠が調査委員会の報告書に見事に示されている。すべて客観的証拠によって認定された事実ではなく「推測」である。これは海上保安庁の有罪認定が「結果論的こじつけ」(無過失責任の主張)の可能性が大であることを示す。

 なぜ、国土交通省は結論を急いだのか。それは必ず後続する民事賠償請求訴訟を有利に展開する意図があると推測されても仕方がない。また、海上保安庁自身が、天災時に必要な船舶への指示や安全確保業務に瑕疵があったとの非難の可能性がある。

 先に、原発事故の過失責任について裁判所は天災時の予測困難性について高度の注意義務を否定した。同じ天災時に元船長に高度の注意義務、不可能な予見義務や回避義務を前提とする書類送検や起訴が行われれば、日本の刑事司法は完全に官僚支配の恣意的不正義行政となる。

 衝突艦船の所有者は連絡橋破壊による損害賠償義務を負うか。これは工作物責任論と極めて類似する。艦船の走行や避難時の係留に瑕疵(過失)がなければ、天災による不可抗力事故として賠償責任は否定される。その瑕疵(過失)の存否について重要な要素が、海難事故防止の義務と権限をもつ海上保安庁の事故当時の当該艦船への適切な指示指導の有無である。

 当該海域に極めて専門的な知識と経験をもつ海上保安庁が事故の発生を予見し、必要な指示と海難事故回避の措置を行わなかった事実は、元船長には非難可能な業務上の過失責任は存在しなかったとしなければならない。

 元船長が海上保安庁に対して事実隠蔽や虚偽報告等の事情はなく、海上保安庁は本件事故当時、当該海域を業務により監視観察していたものだからである。元船長の行為に改善変更の余地があったなら、それは同時に海上保安庁の安全指導の義務違反を否定できない。賠償請求訴訟には国が補助参加することになる。

【凡学一生(東京大学法学士)】

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