東郷和彦の世界の見方~第1回 ウクライナ和平の動向(その1)(後)
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NetIB-NEWSでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、元外務省で欧亜局長やオランダ大使を歴任した政治学者の東郷和彦氏によるウクライナ和平の行方に関する記事を共有していただいたので掲載する。
バイデン時代、戦争終結の途がみえずに悶々としていた私は、1月20日晴れてアメリカ大統領の職務を開始したトランプが、いま、ウクライナ戦争終結に向かって開いた「機会の窓」の重みに、誠に武者震いがするような感慨をもっている。
もちろん私は、この交渉の当事者ではない。しかし、せめて、この歴史のなかにただいま現在大きく開いた「機会の窓」をしっかりみつめ、生起する事実をその時点で記録し、歴史に対する自分の見方として記録できないかと考えた。
いま最も興味あるポイントは、「大統領就任後一日で戦争を終わらせる」と豪語し今はそれが「半年以内」というようなかたちで伸びてきたトランプ側が、どのような和平案を考えているかである。
しかし、トランプ当選が確定した時点から自国にとっての和平のゆずれない一線を明確にマスコミのなかに流しているロシアが、どのような心理状況で今日以降の交渉に対応していくかは、それと同じくらい重要である。
ロシアは、11月5日以降の2か月半さまざまなシグナルを出しているが、一番最近のシグナルとして、ラブロフ外務大臣の長時間の記者会見がある。そこで今日は、そのなかのウクライナ戦争関連部分を以下に紹介したい。
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2025年1月14日:ラブロフ外相記者会見ウクライナ戦争関連重要部分(ロシア外務省ホームページより)
(1)これまでの議論は準備的性格をもつが、それでも、国家安全保障担当補佐官就任が目されているマイケル・ウォルツ氏は、この紛争の「根本原因」として、NATO拡大政策を挙げた。私たちがこれまで提起してきたNATOの東方拡大という根本原因が、アメリカないし西側指導者の口から提起されたのは初めてのことであり、高く評価される。トランプ氏もすでに、ウクライナはNATOに加盟しないとの前言に反していると述べた。(筆者注:1月7日トランプは、ウクライナのNATO加盟に反対するロシアに共感すると発言した[ロイター])。
(2)しかし、ロシア人の言語、文化、教育、最重要宗教がウクライナで法的に禁止されている問題は、今後取り上げられねばならない。
(3)我々はいまウクライナと呼ばれている国の安全保障を議論する用意があるが、それは、ユーラシア大陸の文脈で行わなければならない。(ウクライナが存在する)この大陸の西側は、中国・インド・ペルシャ湾・南アジア・バングラデシュ・パキスタンなどのユーラシア大陸の大国に扉をとざすわけにはいかない。我々は、この大陸の問題は、NATOではなく、大陸全体によって処理されなければいけないと考えている。
トランプが今日、大統領職に就いた時点からどのようなウクライナ政策をうち出すのか、非常な興味がもたれるところである。
(つづく)
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