2024年09月04日( 水 )

関電疑獄(2)~不正疑惑を一層深めた矛盾の記者会見

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1 賄賂リストの疑惑

 元助役は詳細な賄賂リストを残していたという。関電の記者会見での弁解はこの賄賂リストにそって、受領した賄賂の「金額・価値」を発表し、それらの大部分を返却した、と公表した。

 この事実だけで、関電が巨大な矛盾、つまり虚偽の発表をしていることを記者会見に参加した記者たちの誰1人として質問しなかったことは、もはや驚きというより、メディアの記者はただの「目が節穴」だけでなく、巨大会社の犯罪隠蔽の協力者の役割を荷負わされていることを痛感せざるを得ない。

何が矛盾・虚偽か。

 通常、「返却した」と弁解する場合、それは何時、どのようにして返却したか、が当然問題になる。つまり、返却を示す証拠の提示である。この点を質問しなかった記者たちは事前に質問制限を受けていたのだろうか。

 しかし、そもそも一回性の賄賂提供ではなく、長年にわたり、時期もランダムな複数回の賄賂の提供の「返却の記録」など、そもそも保存することは異常である。賄賂の提供自体が犯罪の存在を推認させるのであるから、受領者が返却することも返却の記録を残すことも事実上意味がない。贈賄者も収賄者もその事実自体を隠蔽するのであって、返却記録は賄賂行為の存在を証明するから、収賄者が保存することはない。つまり、賄賂を返却するということは本来、論理的にあり得ないことで、犯罪者にとっては無意味なことである。賄賂罪当事者は発覚しないことだけに努力・工夫を傾注する。

 注:賄賂罪には賄賂申込罪がある。これは贈賄者が賄賂を提供して犯罪行為に勧誘する行為であるから、当然、受領者がそれを拒絶して賄賂の返却をする。本件はそのような人間関係・事実関係にある当時者ではないから、賄賂の返却という事象はそもそも存在しない。

 賄賂犯罪は事件が発覚しない限り、賄賂が返却されることはない。その意味で、事件発覚後の収賄者の「返却弁解」は基本的に虚偽である。会見に参加した記者がこの賄賂犯罪に関する基本的な犯罪論理・構造を知らないことが驚きである。

 日本では賄賂の存在が発覚してから、よく、「返却した」とか「返却する予定」とかの弁解をする公職者が報道されるが、賄賂の発生機序を考えれば、それらの弁解が虚偽であることが理解される。もちろん、事件が発覚してから、あわてて返却する事例は無数にある。それは犯罪理論からみれば、まったく意味のないことであるが、日本では不思議に流行している。日本の検察が、賄賂が返却されていれば、不起訴処分にする「誤った刑事司法」を行っているからだろう。これが「返却弁解」の存在理由の1つでもある。

 最も重大な矛盾・虚偽は贈賄者元助役が賄賂リストを残していたことである。

 返却されれば賄賂リストは存在根拠を失い、保存する意味がない。賄賂リストは贈賄の度に作成記録され、その削除変更も返却の度に修正変更される。その最終結果が残存する賄賂リストである。関電がその最終リストに符合する金品について返却弁解しても、それ自体が虚偽であることは明白である。つまり、実際の贈賄行為と返却行為の関係を考慮すれば、返却された賄賂はそもそも当事者の記憶(主観的存在)のなかにのみ残存する。返却されなかった賄賂についてのみ、客観的存在として賄賂リストとなる。

 読者のなかにはなお、この理屈が理解・承服できない人もいるだろうから、より具体的にその矛盾・虚偽を事例的に説明する。

 賄賂リストは7年間分といわれる。そこで最初の年の賄賂について考察する。より具体的に日時を仮定すれば、たとえば初年8月にお中元として20名の役員・重職者に社会的相当性を超える不相当な商品券が贈られたとする。8月に受領した役員・重職者全員が返却するためには、受領者全員が会合し、その対策として同一行動に出る他ない。偶然、全員が返却行為を行うことなどあり得ない。そもそも、関電側には誰に賄賂が送られたかは、社内調査でもしない限り、その全容を把握することは不可能であるから、同一行動などあり得ない。

 もし、翌年、再び20名の役員・重職者に賄賂が送付されたなら、これは前年の賄賂が返却されていない決定的な証拠となる。そして、仮に、この翌年の賄賂も同じように返却されたなら、翌々年の賄賂の送付は絶対に存在しない。つまり、賄賂の返却があれば、数年間にわたる(報道では7年間分)賄賂の送付など存在しえない。賄賂送付の記録が7年間におよぶことが賄賂の返却が無かったことの決定的な証拠である。

2 本件賄賂罪の本質と背後の重大犯罪

 賄賂の存在はその背後にある重大犯罪が論理的に推論できることに意味がある。本件では賄賂の存在とその返却、その間の事情だけが報道されている。返却されようがいまいが、その贈賄の態様が、やくざまがいであろうがなかろうが、問題なのは、その背後にある重大犯罪である。原発立地問題、受け入れ自治体で起こった「不都合な真実」これらに関する重大犯罪であることが推察される。関電が仮に不相当な価額で元助役の関係する企業に工事を発注しても、それを維持継続するために、本件のように一方的で強制的な賄賂受領の強要は理不尽である。工事発注額が減少してきた等の事情もないから、賄賂を贈る意味もない。

 賄賂受領の強要こそ本件事件の特徴であり、その意味自体が不明の現在、隠蔽された不都合な真実・隠された犯罪はまったく闇のなかである。

(つづく)
【凡学一生(東京大学法学士)】

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