JR九州、ハイエナファンドの餌食になる!~ファンドの圧力に屈して、100億円の自社株買い(前)
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サバンナに生息するハイエナは時速65kmを超える俊足と並外れたスタミナを併せ持つ優秀なハンターである。短時間で仕留めることは想定しておらず、群れをなして、時間をかけ獲物を疲れさせたところで仕留める。アクティビストと呼ばれる「物言う株主」は経済界のハイエナである。九州旅客鉄道(JR九州)がハイエナファンドの餌食になった。
ハイエナの手法:青柳社長の首を人質にとる
JR九州は11月5日、発行済み株式の2%に当たる320万株、取得額100億円を上限に、自社株を取得すると発表した。同社の「自社株買い」は初めて。市場に出回る株式の数が減り、投資家が株価の上昇が期待できる手法で、米投資ファンドが提案していた。
大株主の米投資ファンド、ファーツリー・パートナーズは6月の定時株主総会で、最大720億円かけて10%の自社株買いを行うよう提案。JR九州側は「駅ビル開発などに資金が必要」「将来の成長を犠牲にする」などと反対し、提案を退けていた。
JR九州は一転して、自社株取得に踏み切った理由について、株主総会でファーツリー社の提案に一定数の株主が賛同したことや、欧米の投資家との意見交換で、効率的な資本運用を求められたことを挙げた。
いささかきれいごとすぎる。ハイエナファンドの手口は生やさしいものではないからだ。
株主総会では、ファーツリー社の株主提案はすべて否決されたが、自社株買いには34.10%の賛成があり、賛成率のあまりの高さに、JR九州は肝をつぶした。
JR九州の海外投資家の保有比率は18年3月期末の38.01%から19年3月期末には44.71%と6.7ポイント増加した。
自社株買いの支持率の高さ、海外投資家の多さで、ファーツリー社とJR九州の力関係は逆転。そこで、ファーツリー社は奥の手を出した。自社株買いの要求を呑まなければ、来年の株主総会では青柳俊彦社長の不信任を突き付けるぞと揺さぶりをかけたのではないか。ハイエナファンドの常套手段だ。青柳社長の再任が拒否されることさえあり得る事態だ。
青柳社長の首を人質に取られたJR九州は譲歩するしかなかった。それが100億円の自社株買いだ。元手は、12月に発行する200億円の社債や、傘下の事業の売却益を充てる。
JR九州は借金や資産の切り売りに追い込まれた。しかし、720億円の自社株買いを要求しているハイエナファンドが100億円の株主還元策で引き下がるとは思えない。「もっと吐き出せ」と迫ることになるだろう。
鴨がネギを背負ってきた
JR九州は2016年10月、悲願の株式上場をはたした。実質的な官営企業から完全な民営化への転換だ。ハイエナファンド軍団は「鴨がネギを背負ってきた」と舌なめずりした。
かつて株式を公開する場合、安定株主として取引銀行や取引先に株式をもってもらうのが慣例であった。だが今日、投資家の利益を損なうとして、株式の相互持ち合いはご法度。
安定株主を確保できないまま株式上場したJR九州は丸腰で、ハイエナの群れとの“荒野の決闘”に臨まざるをえなくなった。
一番バッターとして登場してきたのが、米投資ファンドのファーツリー社。1994年に設立され、預かり資産は約60億ドル。日本企業には5社投資しているそうだが、その名を高めたのはJR九州とのド派手な攻防戦だ。
ファーツリー社はJR九州の株式公開時に株式を取得、その後も株を買い進めた。保有比率が5%を超えたのはJR九州が初めてだという。
ハイエナファンドは苦戦している鉄道を救済するために、投資しますという心優しき手合いではない。「鴨がネギを背負っていた」から投資した。
JR九州の稼ぎ頭は、不動産・ホテル事業だ。2019年3月期の連結営業利益は638億円。そのうち不動産・ホテル事業のそれは254億円。儲けの4割を叩き出している。なかでも不動産賃貸が206億円と大半を占める。
不動産賃貸とは、駅ビルのこと。博多シティ、小倉シティ、長崎シティ、大分シティ、鹿児島シティがある。駅ビルは、地元の商業地図を一変させた。
ファーツリー社にかぎらず、海外の投資家が、JR九州に群がった理由ははっきりしている。JR九州を“ポッポ屋”(鉄道会社)ではなく、駅ビル会社と見なしているからだ。駅ビルで稼いだ分け前を我々にも寄こせということだ。
(つづく)
【森村 和男】関連キーワード
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