人工知能(AI)はこれからが本来の意味での発展に向かう!(3)
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慶応義塾大学理工学部 教授 栗原 聡 氏
生命のような複雑システムは、機械学習のみではできない
――今度は「生物」と「機械」の違いについて教えてください。
栗原 「入力に対して出力を返すというシステム」については、生物も機械も同じです。ところが、そのシステム設計の方法は、機械と生物は「真逆」です。一言で表現すれば、ほぼすべての工学製品が「トップダウン型」の設計方法でつくられるのに対し、生物は「ボトムアップ型」の方法で進化してきました。
トップダウン型とは、最初につくりたいモノの全体像をイメージ、次にその完成形の構造や機能を入念に整理して、全体をいくつかの大きなパーツ(車であれば、ボディ、エンジン、内装など)に分割します。ボトムアップ型で、念頭に置きたいのは、生物を構成するのは細胞というパーツです。たとえば、人の体は数十兆にもなる膨大な数の細胞から構成されています。トップダウン型の設計には、これだけのパーツで構成される製品は存在しません。航空機であっても数百万パーツに過ぎません。
ボトムアップ型では、トップダウン型設計において最後に登場する末端のパーツレベルの設計が最初に行われます。生物における末端のパーツである細胞は、自らが生きるために活動し、ほかの細胞とくっついたりする能力をもっています。このように、個々のパーツを設計すると、その後はパーツ同士の相互作用や自己組織化によってパーツ同士が勝手にまとまりながら新たな能力を生み出していきます。このことを「創発」と呼んでいます。
創発とは生命現象そのものです。たとえば「群知能」(間接協調メカニズムにて生み出される知能、人を始めとする生物は群知能型のシステムである)です。「蟻の行列」「渡り鳥のV字飛行」「鰯の魚塊」パプアニューギニアの山奥に生息する「蛍の同期現象」などが該当します。このように、社会性を持つ生物の群れはさまざまな能力を発揮します。では、なぜ創発が必要なのでしょうか。それは、創発により種を地球環境に適応させ、種を保存させることが進化の大目標だからです。
AI(高汎用型)開発ということになると、より具体的な能力や機能をもつシステムを意図的に進化させる新たな手法が必要となりますが、そのための完成された理論体系はまだできていません。このような研究は進化計算研究分野とか創発計算研究分野と呼ばれ、これもAI研究の重要なテーマであり、今後大きく注目されることになるでしょう。生命のような複雑システムは、AIにおける主要技術の機械学習のみでつくることはできません。すなわち、そう簡単に人を超えるAIなどできないのです。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
栗原 聡氏(くりはら・さとし)
慶応義塾大学大学院理工学研究科修了。NTT基礎研究所、大阪大学産業科学研究所、電気通信大学大学院情報理工学研究科などを経て、2018年から慶応義塾大学理工学部教授。博士(工学)。電気通信大学人工知能先端研究センター特任教授。大阪大学産業科学研究所招聘教授、人工知能学会倫理委員会アドバイザーなどを兼任。人工知学会理事・編集長などを歴任。人工知能、ネットワーク科学等の研究に従事。著書として、『社会基盤としての情報通信』(共立出版)、『AI兵器と未来社会』(朝日新書)、翻訳『群知能とデータマイニング』、『スモールワールド』(東京電機大学出版)など多数。関連記事
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