2024年12月01日( 日 )

創業100年企業の遠忠食品 「三方よし」の精神が長寿企業の秘訣(3)

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遠忠食品(株)代表取締役 宮島 一晃 氏

100年企業は攻めの経営

 宮島氏が子どものころは、東京・日本橋にある本社の1階は惣菜と佃煮の製造工場で、2階に住まいがあった。当時は住み込みの従業員が多かったが、大豆もやしを味付けした惣菜が爆発的に売れて手狭になったため、埼玉県の越谷市に工場を移した。

 国産原料を使った惣菜や佃煮の商品は、ほかの真似をせず、「こうしたらもっといい商品になるのではないか」というアイデアを考えてかたちにしていく。企業として積極的に挑戦を重ねており、失敗したらやめれば良いという考えで、実績にとらわれず、新しく生み出していくことに前向きだ。

 「創業100年企業といわれる歴史ある企業は、実績があっても歴史に胡坐をかいたら経営は続かない。繁盛している企業は、過去にとらわれず、時代に合わせて工夫を重ねる攻めの経営をしている」と宮島氏は話す。たとえば、伝統ある菓子屋の「とらや」も和菓子を販売する店舗だけでなく、「トラヤカフェ」など業態を広げている。

 3代目の宮島氏は事業を継ぎ、4代目にバトンを渡すことも視野に入れている。100年企業にとって、会社を続けることこそが第一という価値観からだ。4代目に会社をバトンタッチできるようにと、宮島氏は事業継承への意識も深い。

遠忠食品は無借金経営だという。「背伸びせずに堅実に事業を続けている。機械への投資も、利益が出たらという姿勢で行っている。先行投資して会社を大きくすることはやらない」と宮島氏は話す。

 工場も50年以上使い続けており、次の世代に引き継ぐ時には、使い勝手を工夫したいという。「食べる人とつながり、つくったもので喜んでもらい、自社のブランド力を高めることこそが、長く事業を続けるためには必要だ。仕入先も消費者も大切にして、その場しのぎではなく、お互いに繁栄する関係が何よりも大切だ。売上を伸ばして会社規模を大きくすることよりも、遠忠食品と取引してよかったと感じてもらえる会社にしたい」と宮島氏はいう。

 一時期とても繁盛した企業でも、事業を急拡大しすぎると、商売や時代の流れが変わった時に、受けるダメージも大きい。「大手企業との取引を広げて、事業規模を急に大きくした企業は、業績は一気に伸びたが、取引の波を受けて倒産する企業をいくつも見てきた。商売の山が高ければ、谷も深くなる。さらに、販売量が増えても利益を上げられるかは別問題だ。商売のリスクをどの企業が取るのかという点も、販売するうえでは見極める必要がある。商売や取引を続けられるかを、何十年という長い目で見極めて事業を展開してきた」と宮島氏はいう。東京・日本橋には、1894年創業の千疋屋や1690年創業の海苔の山本山など、100年以上続く老舗企業が多い。下町で人情が厚く、地域のつながりが深いことも特徴だ。

直営店舗の「遠忠商店」
直営店舗の「遠忠商店」

 遠忠食品にとっての「攻め」は業態の多様化だ。2010年に立ち上げた直営店舗「遠忠商店」は、初めの5年間は赤字で苦戦したという。だが、店舗の認知度を高めるために、Facebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)などのSNSを活用し、新規事業として軌道に乗せた。

 また、食生活は、時代とともに核家族が増えて変化している。それにともない、容量の大きい瓶対応から、食べきりサイズに佃煮のニーズも移っている。そのため少量タイプの商品ラインナップを増やし、時流に合わせて商品のかたちを工夫している。

 「老舗であっても、常にアンテナを張っている。だが、今の時代はテンポが早すぎて、すぐに求められるものが変わる。食品業界はとくに、遅れてしまわないように時代に合わせた提案が必要だ。顧客の感性がどんどん変わっていくので、立ち止まってしまうとその途端に古くなってしまう」と宮島氏は話す。

(つづく)
【石井 ゆかり】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:宮島 一晃
所在地:東京都中央区日本橋蛎殻町1-30-10
設 立:1948年3月
資本金:1,000万円
売 上:(19年/12月期)2億2,000万円

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