NetIB-NEWSでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は「緩み切った万博協会の現実は絶望以外の心境しか与えない」と論じた5月12日付の記事を紹介する。
大阪万博を訪問する人数が想定をはるかに下回っている。有料入場者数が一定水準を超えないと赤字になる。このため、集客に懸命になっている。数字のつじつまを合わせるために、小中学校の児童生徒の無料招待が行われているが児童生徒のチケット代は公費から支払われる。したがって、収支から無料招待分は差し引く必要がある。
入場者数が足りずに赤字になるのと税金を投入して無料招待するのは同じこと。公費負担でない入場料収入で収支を計算して発表しないと万博事業の採算が取れたのかどうかが明らかにならない。
公費による無料招待については万博の収入金額から除外して計算する必要がある。入場者不足を糊塗するためにスタッフの万博会場入り人数を盛り込んで数字を発表しているそうだが、姑息なことはやめるべきだ。
そもそも、公費で万博を開催する意味がない。採算に乗る事業なら公費に頼らずに民間の力だけで開催すればよいだけのこと。夢洲にIRを建設する目論見があるが、公共交通機関がないため、万博にかこつけて税金で公共交通機関を敷設することが万博開催の最大の目的だったのだと考えられる。もとより、極めて筋が悪い。
これから日本は過酷な季節を迎える。まず想定されるのが豪雨被害。夏場から秋にかけては台風被害も想定される。暴風によって人的被害が発生すれば目も当てられない。近年の夏は暑く、熱中症の被害が懸念される。木造建造物のリングの屋根は暴風が吹けば雨よけの役割を果たさない。高齢者は日よけのない広い敷地を徒歩で移動することにより健康被害を被る恐れが高い。
入定者数が少なくても満足度が高ければいいとの主張が示されるが、わざわざ万博に足を運ぶ人が満足度が低いとは言わないだろう。自己の行動を正当化するためにも「満足度が高い」と言うのが普通。来場者のアンケート結果が良ければ問題なしとする姿勢に問題がある。万博に行かないという人をアンケートの対象にするべきだ。いかなる理由で万博に行く意思を持たないのか、あるいは、万博に行きたくないと思うのか。このアンケートを実施すれば大阪・関西万博が日本国民全体にどのように評価されているのかが分かるはずだ。万博を訪問した人だけを対象にするアンケートは協会の不正なスタンスを示すもの。
現時点での最大の問題は禁煙ルールが守られていないこと。ルールを守れないならイベントを中止すべきだろう。「会場内は禁煙」のルールを設置したのではないか。ルール違反をしているのは一般入場者ではない。開催側スタッフである。
開催側スタッフがルール違反の喫煙を行っている。万博協会はルール違反の事実を確認しながら毅然とした対応を取らない。パビリオンスタッフは運営側の人間。運営側のスタッフがルールを守れずに、一般入場者にルールを守れと主張できるのか。
※続きは5月12日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「絶望的な万博協会の堕落」で。
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植草一秀の『知られざる真実』
【6/20】植草一秀プレミアム・セミナー開催
6月に新刊『財務省と日本銀行』を上梓する植草一秀氏を講師に迎えて、日本の財政政策の実態を読み解き、経営者が今後の経済環境にどう向き合うべきかを考えるセミナーを開催します。植草氏と直接意見交換ができる貴重な機会です。ぜひご参加ください。
<INFORMATION>
日 時:2025年6月20日(金)午後3時~6時
場 所:福岡市民ホール(小ホール)
プログラム詳細
講演『財務省の正体とビジネス防衛論』 午後3時~4時半
質疑応答 午後4時半~5時15分
交流会(軽飲食付き) 午後5時15分~6時
講 師: 植草一秀氏(政治経済学者)
参加費:1万円(飲食、書籍、資料代含む)
主 催:(株)データ・マックス
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。