2024年11月05日( 火 )

ロッテ重光一族の骨肉の争い~長女がキーパーソンに浮上

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 韓流ドラマは、財閥の跡目相続のお家騒動が定番だが、それを地にいったのがロッテ重光一族の骨肉の争いだ。舞台は日本事業の持ち株会社のロッテホールディングス(HD)。副会長を1月に解任された長男、重光宏之氏(61)が、創業者の父、重光武雄会長(92)と組み、次男の重光昭夫副会長(60)を追い落とすクーデターを仕掛けた。だが、返り討ちに遭って、父親は解任された。経営権を巡る父親=長男連合と次男の対立はどこに向かうのか?

次男追放のクーデターは失敗

 クーデターが決行されたのは7月27日だった。父、武雄氏は車いすに乗り、長男の宏之氏のほか長女の辛英子(シン・ヨンジャ、72)氏ら親族5人とチャーター便で韓国を出発し、午後に東京・新宿のロッテ本社に乗り込んだ。事前に集められていた取締役に対して、宏之氏が「武雄会長を除くロッテHDの全取締役の解任を決めました」と宣言した。

 突然の解任宣告に昭夫氏は反撃に出る。翌28日に開いたロッテHDの取締役会は、「法的手続きを踏んでいない」として、取締役解任の無効を確認。返す刀で、武雄氏の会長職を解任、代表権を外し名誉会長に追いやった。次男追放のクーデターは失敗した。

解任された長男が父親と組む

office 創業者の武雄氏は、在日韓国人1世として日韓にまたがる巨大グループを築いた立志伝中の人物だ。1990年代からは、日本を長男の宏之氏、韓国は次男の昭夫氏が担当して、兄弟間で分業してきた。

 2013年から宏之氏が韓国ロッテ製菓の株式を買い増したことから亀裂が生じた。韓国ロッテ財閥グループ各社の最大の株主はロッテ・ショッピングだが、その大株主がロッテ製菓だ。一族が株でグループを支配する核心企業の1社がロッテ製菓だ。絶対君主の父親の許可を取っていなかったのだろう。

 父、武雄氏の逆鱗に触れた長男の宏之氏は今年1月8日、ロッテHDの副会長を解任された。日本のロッテグループの役職をすべて失い、追放された。韓国ロッテグループ会長の次男・昭夫氏が、日韓のロッテを束ねる後継者の地位を固めたとみられた。

 それから7カ月。父親は追放したはずの長男と組んで、次男を排除するクーデターを仕掛けた。「皇帝」が心変わりしたのはなぜか。

父親の逆鱗に触れた中国事業の大赤字

 韓国メディアはロッテのお家騒動を連日、大々的に報道している。長男の宏之氏が、メディアのインタビューに応じて巻き返しに出た。
8月2日、宏之氏はKBS(韓国放送公社)のインタビューで、昭夫氏が父親の逆鱗に触れた原因を語った。朝鮮日報日本語版(8月4日付)はこう書いた。記事中の韓国名は、日本語名に置き換えて引用する。

〈(次男の)昭夫氏は7月8日、父・武雄氏に呼び出されて叱責された。昭夫氏の兄、宏之元ロッテHD副会長は番組インタビューで「父は弟を叩いた」とまで言った。叱責した理由は「なぜ中国で1兆ウォン(約1,060億円)もの赤字を出したのか。なぜ報告しなかったのか」というものだった。
(中略)昭夫氏は「何度も中国事業赤字の件を報告した。状況は良くなっている」と話したが、武雄氏は激怒し、「今後は姿を現すな」と大声で叫んだという〉

 別の韓国メディアは、〈父が中国事業で兆ウォン単位の損失をだした弟に「弁償しろ、刑務所に入れる」とまで述べた〉と報じている。中国事業の失敗が、父と次男の溝が深まった最大の原因だった。

次男に無視された「皇帝」の怒り

 次男の昭夫氏は、父親と決別する腹を固めたようだ。父の意向に従わず、独自の行動を強める。7月15日に日本のロッテHDの代表取締役となり、自身が日本のロッテ代表に就任したことを知らせる社長団会議を強行した。これを韓国の新聞が報じた。
 長男の宏之氏は自分の正当性を強調するため、メディアのインタビューをこなしているが、日本経済新聞(7月30日付朝刊)でこう語っている。

〈昭夫氏が日韓両方の経営を見るという新聞記事が出たが、父は全く知らなかった。そこで18日、昭夫氏に日本ロッテグループの役職解任を指示したが、昭夫氏は父に顔を見せず辞めもしなかった。父は無視されたことに怒り、「自分で直接言って申し渡す」と来日した。私が連れてきたのではない〉

 7月27日、武雄氏は宏之氏と一緒に日本に行き、ロッテHD本社で昭夫氏をはじめとする取締役6人の解任を試みるクーデターを起こしたわけだ。だが、昭夫氏側の反撃でクーデターは抑え込まれた。“鶴の一言”で決めてきた「皇帝」の神通力が失われた瞬間だ。

新たなキーパーソンは長女

 今後の焦点はロッテHDの株主総会だ。株主総会の開催日程は決まっていないが、宏之氏は日経とのインタビューで、「昭夫氏ら全取締役の入れ替えを提案する」と宣言した。

 韓国メディアによると、ロッテHDの株式は一族の資産管理会社、光潤社が27.65%を保有している。武雄氏が、この会社を誰に渡すかによって、ロッテの支配権が変わる。
 2014年の日韓連結財務諸表によると、売上高は6兆5,000億円に上るが、売上高の90%以上は韓国ロッテが占める。だが、日本のロッテHDは韓国ロッテグループの持株会社的存在であるホテルロッテの株式19%を持つ筆頭株主だ。ロッテグループの支配構造はロッテHDを頂点とする出資構造になっている。そのためロッテHDの筆頭株主である光潤社を握ることで、日韓のロッテグループを支配することができるわけだ。

 韓国メディアがキーパーソンとして注目しているのが、長女のシン・ヨンジャ氏。中核企業のロッテ・ショッピング社長をしていたが、現在はロッテ奨学財団理事長などグループ内の財団法人を担う。長男と次男は父親の信頼はないが、長女は信用があついとされる。
 7月27日、父の武雄氏と共に来日し、次男を解任するというクーデターに立ち会った。韓国メディアは「ヨンジャ氏が、後継者争いの前面に乗り出した」と報じた。今後は、長女と長男、次男の3つのロッテに割れる可能性があると推測している。ロッテ重光一族の骨肉の争いは、これから何回も目の当たりにすることになるだろう。

 

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