長男を後継者にした鈴木修・スズキ会長の「引き際」(前)
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日本では「引き際の美学」が賞賛される。
惜しまれながら自発的に辞めた経営者は「潔い」として賞賛される。
これは株主によるチェック機能が働かないことの裏返しである。経営トップの交代に株主の意向が反映されないため、経営者自らの判断に頼るしかないのだ。引き際の見事さで今なお語り継がれているのは、本田宗一郎氏だ。本田技研工業の創立25周年にあたる1973年10月、本田宗一郎氏は引退した。66歳という大企業のトップとしては若い引退だった。引退後は、経営の口出しを慎んだという。
時がたつにつれて本田氏の評価が高まったのは、一介のベンチャー企業を世界のHONDAに育て上げた成功者というだけではない。引き際の見事さと第2世代へのバトンタッチがうまくいったからである。
本田宗一郎氏は希有な存在だった。
引き際を誤り、晩節を汚す経営者はあまりに多い。実際、引き際は難しい。権力と名誉と金銭的報酬を伴う地位を自ら引くことは、欲望のかたまりである人間には容易ではない。
バトンタッチをうまくするのも、経営者の責務である。経営者を辞める時には、後継者を決めておかねばならない。しかし、バトンタッチもうまくいかない。株主を軽視した株主総会4日後の社長交代
経営者の引き際を考えさせる出来事を目にした。スズキの鈴木修会長(85)である。
スズキは6月30日、鈴木修会長兼社長が社長職を退任し、修氏の長男の俊宏副社長(56)が新社長に就任した。修氏は会長兼最高経営責任者(CEO)を続ける。
スズキは急成長が続くインド市場で乗用車のトップシェアを占める。スズキのインド進出の最高殊勲選手が修氏である。世界の自動車メーカーのトップ10に入る名経営者だ。そんな傑出した経営者である修氏だが、“老いたり”と痛感したのが今回の社長交代だ。
1つは、株主総会からわずか4日後という異例な社長交代したこと。株主軽視も甚だしい。修氏は「中小企業のオヤジ」を自称しているが、スズキは東証1部に上場している大企業である。株主から委託されて経営をやっている以上、トップ交代については株主の信任を得なければならない。株主総会で、社長交代を表明するのがルールである。
今年は株主主権を掲げる「企業統治元年」といわれた。株主をまったく無視したトップ交代の発表は、「鈴木修商店」でないかと唖然とした。(つづく)
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