生活より景観が優先された「鞆の浦」「ポニョ」の舞台も人口減と高齢化、観光も低迷(後)
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江戸時代に港町として栄えた面影が残る広島県福山市の景勝地「鞆の浦」(とものうら)。慢性的な交通渋滞の対策として県が計画した鞆港の一部埋め立てや架橋が2009年、広島地裁に「景観保護」を理由に差し止められた時は「画期的判決」として大きく報道された。そんな景勝地は現在、人口減と住民の高齢化が進み、観光も低迷している。
観光バスの来訪が減少歴史的建造物も客はゼロ
では、「鞆の浦」の景観には、住民の生活を犠牲にしてでも保護する価値はあったのか。
実は「鞆の浦」は“国民の財産”と認定されたにもかかわらず、「観光」も低迷している【表】。
「画期的判決」が出た翌10年の観光客数は、前年から約57万人増の240万6,000人を計上しているが、翌11年はその反動か、約44万人も減少し、196万5,000人にまで下落。「鞆の浦」でロケをした連続ドラマ『流星ワゴン』が放送されるなどした15年には、再び観光客数が236万4,000人へと激増しているが、その後は逓減傾向に。直近の18年の統計では、観光客数はまだ200万人台だが、観光消費額は「画期的判決」が出る以前の水準を下回る103億5,600万円にまで落ち込んだ。
要するに観光で「鞆の浦」を訪れる人は多少増えているが、観光客が現地で使う金は逆に減っているわけだ。
土産物屋を営む女性によると、「以前は観光バスが一日に何台も店の前に乗りつけていたのに、最近は少なくなって、今日はまだ1台のバスも来ていませんよ」とのこと。報道の影響でドライブがてらに景観を見に来る人が増えても、そのせいで道路がいっそう混雑し、現地で買い物をする従来の観光客が減ったのであれば地元の観光業者は迷惑だろう。
観光施設もいくつか訪ねたが、鞆沖で沈没した坂本龍馬と海援隊の船にまつわる資料を展示した「いろは丸展示館」は客が数人しかおらず、国の重要文化財に指定された江戸時代から残る商家「太田家住宅」に至っては筆者以外に客がいなかった。
「太田家住宅」の案内係の女性は「ひな祭りの時期になれば、またお客さんは来ると思うんですよ」と明るく語っていたが、彼女自身はボランティアで働いているという。歴史的な価値がある建造物とはいえ、ボランティアに頼らないと存続できないのでは、観光資源としての価値には疑問符がつく。
県は、山側にトンネルをつくれば町中の交通量を大幅に減らせると試算しているが、複数の住民から「トンネルでは遠回りになるので、不便さは変わらない」と聞かされた。一方、景観保護のために撤回された架橋の計画について、「むしろ景観的にもそのほうが良かったのに」と残念がる住民もいた。「だって、橋をつくれば、橋を渡りながら(シンボルの)鞆港の常夜燈も見られたと思うんですよ」(住民)。
住民生活の改善を後回しにした「鞆の浦」に関する司法や行政の判断に最終的評価を下すにはまだ早い。しかし、報道のイメージと裏腹に、現時点で前向きに評価できる点は乏しい。
(了)
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