「検察崩壊元年」ゴーンの反撃(12)
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2つの密出国事件
1つは60年前の昭和30年代に起きた「白山丸事件」。
被告人は昭和28年末に中国大陸に密出国し、5年後の昭和33年7月13日に白山丸で帰国した。帰国の際の入国手続きで密出国の事実が判明し、起訴された。弁護人は密出国罪は法定刑が懲役1年以下であるから、すでに時効が成立していると争ったが、最高裁は検察官のとんでもない刑訴法255条の独善違法解釈を認容した。(最判昭和37年9月18日第3小法廷)
「犯人が国外にいる」ことだけで公訴時効は中断する、という判例で、現在もこれが盛んに悪用され、事件そのものを検察が知らなくて時効期間が完成した事件でも、詳しく被疑者の海外渡航歴を調べ、立件する例が多数ある。海外留学や海外赴任の履歴がある人々にとっては極めて不利に作用する判例である。現在では外国人を差別する判例として批判をうけることは間違いない。
今回、検察はさらに勝手な「拡大解釈」を付加してゴーン事件に適用し、時効完成問題を潜り抜けた。再び検察官は独善違法な解釈を重ねた。
2つ目は、昨年末の「ゴーン脱出事件」である。
密出国事件は犯人が国内に戻らない限り、逮捕起訴はできない。しかし、当然、検察・警察は何の障害もなく事件を捜査するし、している。この事実こそ、上記最高裁判決理由が虚構・嘘であることを如実に証明している。これに国民は誰も気づいていない。
最高裁は刑訴法255条前段の「犯人が国外にいる」という事実だけで、公訴時効は停止すると判示した。その理由が、要旨、犯人が国外にいれば、捜査が困難だからという。
現在行われている検察の捜査は徹底的なもので、もちろんゴーンが国外にいることが捜査の支障にはまったくなっていない。ほかの国内犯罪と同様、密出国罪は国内犯罪だから当然である。
検察は、58年前にわざわざ裁判官がつけてくれた「屁理屈」を見事に台無しにする田舎芝居を国民に見せている。
白山丸事件は1回の密出国事犯である。従って、「犯人が国外にいる」期間は連続した一個の期間だった。一方、ゴーンの場合、入出国を繰り返し、「犯人が国外にいる」期間は間歇的なもので、検察はこの不連続の出国期間を合算した。この過去の時効停止期間の合算という公訴時効の消滅時効性に論理的に反する「離れ業」を今回、検察は付加した。
公訴時効は検察官の公訴提起によって進行を停止するが、当該公訴が公訴棄却になれば、その公訴提起から公訴棄却までの時効が停止した期間は存在しなかったものとなる。
つまり、公訴時効の完成時期は本来の規定された時期であり、何の変更もない。これは時効停止の法的効果が、改めて時効期間の始期となる場合(取得時効の場合)か、単に時効が再び進行する(消滅時効の場合)かのいずれかであって、公訴時効は検察官の公訴権の消滅時効であり、犯人の不可罰権の取得時効でないから、加算という法文にもない操作は明らかに時効理論に反する。
時効停止期間の合算など検察官が勝手に独自につくり出したものである。もちろん、白山丸最高裁判例は加算事例ではない。事例がことなれば当然判例の援用はできない。
ちなみに、不思議なことに検察に遅れてゴーンを同じ金商法違反で告発した証券取引監視委員会(SEC)は検察の過去8年分の起訴に比して、3年分しか告発をしていない。検察の時効理論が無理筋であることを専門家として十分に理解しているからである。
しかし、この「出し遅れの借り証文」こそゴーン事件の冤罪性を見事に証明している。
通常、監督官庁はまず、是正命令・改善命令を発する。それでも事件が悪質で刑事処分の必要があると判断された場合に、刑事告発が追加される。そこで起訴された8年前の有価証券報告書の重要事項虚偽記載について是正命令や改善命令が出されたのだろうか。
百歩譲ってSECが告発した3年前の有価証券報告書について是正命令や改善命令が出されたのであろうか。もちろんその事実はない。改善命令や是正命令が出せない「虚偽記載」など、この世にあるのだろうか。それがどうして「重要事項」となるのであろうか。
いかにも検察から頼まれ、ないし圧力を受けての「裁判向け」の告発である。一部の人々がゴーン事件を国策捜査であると批判するのも無理からぬ状況といえる。
(つづく)
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