2024年11月26日( 火 )

「検察崩壊元年」ゴーンの反撃(13)

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隠蔽され続ける重大事実

 逮捕起訴からすでに1年以上も公判が開かれていない事実をマスコミはまったく報道しない。これは、ゴーン事件の最大の闇である司法取引の実態の報道をまったくしないことと軌を一にしている。つまり、検察にとって一番隠したい「不都合な真実」が存在するからである。

 刑事裁判に限らず、裁判は大きく2つの手続からなる。要件審理と本案審理である。訴訟要件を具備した訴訟しか審理されない。民事では要件を充たさない訴えは「却下」される。

 刑事では検察が公訴権を独占しているから、「却下」ではなく「公訴棄却」である。

 民事裁判やとくに行政裁判では「却下」判決が多い。下世話にいえば「門前払い」である。これは事実上の裁判拒否であるから、国民には納得のいかない場合が多い。一方、公訴棄却は検察官に対する「門前払い」であるから、伝統的な検察官と裁判官の親密さから、当然その例は少ない。

 刑事裁判で訴訟要件審理事項として争われるのが、警察・検察の違法な捜査、その結果収集された違法収集証拠の問題である。ゴーン事件では、それに加えて公訴時効の問題も加わっている。ゴーンが外国人で、頻繁に入出国を繰り返していたことと、特別背任罪の嫌疑事実が海外での長期の諸活動を背景としたものだからである。

 つまり、ゴーン事件では現在完全な闇のなかにある捜査手続として「司法取引」があり、2名の「自称」共犯者がいる。この「司法取引」が違法手続であれば、それで収集された証拠は違法収集証拠として裁判では使用できない。

 ゴーンの弁護団は、この問題に自信をもっている。この刑事裁判としての開始要件である要件審理についてゴーン弁護団と、検察・裁判所が意見の一致を見ないために、本来、刑事裁判を迅速に効率的に遂行するための制度である公判前整理手続きが難航し、公判がさらに延期されるための打診がされているといわれる。

 もちろん、弁護団は法に定められた通り、要件審理手続から公判を開始したいので、その旨主張するが、検察と裁判所は要件審理を後回しにして本案審理を先にしようとしているため、意見が一致しない。この状態がすでに冤罪を生み出す裁判構造であることは明白であるが、日本のマスコミはまったく関心をもたず、問題にしないし報道もしなかった。このような状況で、ゴーンの国外脱出事件が起こった。

 以上のような被告人にとって「絶望的」な裁判実態を見て、ゴーンが密出国してでも裁判の進行を加速させたいと思っても当然ではなかろうか。

 ゴーンの密出国が犯罪であることは明白で議論の余地はない。しかし、その犯罪に至った「犯情」については、あまりにも隠された真実、不都合な真実が多すぎる。そのような状況であるから日本の司法、ひいて日本人が世界の良識から信用されない状況が生まれている。国民に真実を報道する報道機関の責任は重大である。

(つづく)
【凡学 一生】

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