2024年09月19日( 木 )

日本の未来を変えるか!数々の社会事業を立ち上げ(後)

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NPO法人創造支援工房フェイス 代表理事 池本 修悟 氏

 NPO法人創造支援工房フェイス代表理事・池本修悟氏は、大学時代からNPO(非営利団体)の事業サポートや社会活動を行う人たちのネットワーク化などさまざまな社会事業に取り組んできた。東日本大震災では、762ものNPO団体が参画した東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)の立ち上げにかかわる。2016年には(公財)日本ユースリーダー協会(会長:三村明夫氏)が主催する若者力大賞のユースリーダー支援賞を受賞した。池本氏が自らの言葉で社会事業にかける思いを語る。

アフターケアを応援するプラットフォームへ

 毎年、社会的養護関連施設から、社会に巣立っていく若者は、約1万人にも上るとされています。この子どもたちは、親や親族などに頼ることができないことが多く、学費や生活費などもすべて自分で働いたお金でまかなわなければなりません。また、一般的に考えて18歳前後の若者が大人たちのサポートなしに自立するには、多くの困難があります。

 一方で、退所後の若者(18歳から30歳くらいまで)への社会的な支援(アフターケア)体制は、困難を抱えている若者を社会に包摂していくには、まだまだ多くの課題を抱えており自立援助ホームやアフターケア事業者の持ち出しで運営されていることが関係者にお会いするなかでわかってきました。

 そこで研究会の報告書を踏まえて、2017年には元厚生労働事務次官・村木厚子氏に顧問に就任していただき生協、労組、労働者協同組合、社会福祉法人、社会的企業、学識経験者などが参画する「首都圏若者サポートネットワーク」を立ち上げ、「若者おうえん基金」を造成し具体的な支援スキームの構築に動き出しました。

 アフターケアといわれる分野はまだまだ緒に就いたばかりです。2019年2月には、渋谷区の児童養護施設で当時の施設長が元入所者に刃物で刺され亡くなられた事件がありました。殺人自体は許されるものではありませんが、事件を起こした男性の罪ばかりではなく、その背景にあった生きづらさにも目を向ける必要があります。事件の起きた施設職員の方々は、施設退所後の人々へのアフターケア支援にも熱意をもって取り組まれていましたが、これにも限界があります。その意味で、この事件は社会的養護を巣立った人たちへの支援の必要性とその不足を私たちに突きつけるものでもありました。

家族は万能ではない、地域で子どもを育てる

 日々児童虐待について報道されない日がないほど痛ましい事件がこの国にあふれており、他人事では済まされない機運は高まってきていることは感じています。学生時代、『近代家族の成立と終焉』(上野千鶴子著)を読み現状の家族のあり方に限界を感じていたのですが、介護保険など国から与えられる制度を待っているだけでは、零れ落ちる人が大勢いることが如実になってきています。

 社会的養護の最前線では里親や特別養子縁組など家庭的養育を推進する施策が打ち出されており「家庭の良さ」を私自身再確認しているのですが、同時に「家庭」は万能ではなく、むしろ他人が手出しできない家庭は一番怖く、家族に依存しすぎることでかけがえのない命を失うことの理解を進めることが大事だと思います。

 現在、子ども食堂が全国に広がっていますが、プレーパーク、学習支援、児童館などがすべての地域で整っているわけではありません。ただ、行政から与えられるのを待つ時代ではないのでみんなでつくっていくことが大事であり、私もそのお役に立てるように引き続き頑張っていきたいと思います。

(了)

<プロフィール>
池本修悟(いけもと・しゅうご)

 大阪府豊中市出身、41歳。NPO法人創造支援工房フェイス代表理事。(一社)社会創発塾代表理事。(公社)ユニバーサル志縁センター専務理事。
 高校時代、阪神淡路大震災に際し、何もできない自分に歯がゆさを感じ、大学進学以降、NPOの事業サポートや社会活動を行う人たちのネットワーク化などさまざまな社会事業に取り組んできた。東日本大震災においては、762団体ものNPO団体が参画した東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)の立ち上げにかかわり、いざというときの底力と継続的な連携の難しさを思い知った。そこで緊急時だけでなく普段からセクターを超えて協働できる若者が集い学び合うコミュニティ「社会創発塾」をプロデュース。2016年には(公財)日本ユースリーダー協会(会長:三村明夫氏)が主催する若者力大賞のユースリーダー支援賞を受賞。

彼は将来を託すに足る人物だ

 私には年下の友人が少ない。そのなかでも、こいつは凄いと思える若者は、ほとんどいない。

 池本修悟さんは、その数少ない友人である。彼とは、慶應大学SFCの学生だったころに知り合った。講談社で私がネットを使った週刊誌『Web現代』編集長のときだった。

 突然、彼から電話をもらった。サークルで話をしてくれという依頼だった。何を話したかは忘れたが、目のきらきらした学生が多かったことを覚えている。

 以来、何かと相談にのったり、学生たちと酒を飲んだりしながら、お付き合いをしてきた。

 彼の祖父が中国人で、大阪で大きな中華料理屋をやっていることを後になって知った。

 体は小さいが「大人」という雰囲気のある彼の将来を楽しみにしていた。ほかの学生が就職活動に邁進しているときも泰然自若としていた。

 NPOを通じて、世の中と関わりたいと考えているようだった。その後のことは、彼が書いたものを読んでいただくとして、私はこういう生き方もあるのかと、自分にはない彼の生き方を瞠目して見てきた。

 昨年10月17日の朝日新聞朝刊「ひと」の欄で、彼が取り上げられていた。少し引用してみたい。

 「支える人を支える募金がある。それが『若者おうえん基金』だ。児童養護施設などを離れる若者の不安定な巣立ちに寄り添う『伴走支援』の団体に、その元手を援助する。この基金の運営団体で、昨夏から事務局長を務めている。

 数ある子どもの貧困の課題のなかで『施設を出た後』に的を絞ったのは、『より大変な人を支援したいから』。若者の多くは虐待を受けて育ち、大人への不信が強い。働いても長続きしないなどの困難を抱える。団体も公の支援が薄いために身銭を切っている。現場を訪ねて、そんな実情を教わった。(中略)今は東京を拠点に、NPOや子ども食堂の運営相談や、団体間の連携づくりに飛び回る。『政治家や研究者をサポートするスタッフもしてきたので、支える役回りが体に染みついているんだと思う』」

 彼のような若者が増えれば、この国は確実に変わる。そう思わせてくれる、若いが、日本の将来を託すに足る人物だと、私は思っている。   

【元木 昌彦】

(中)

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