なぜCOVID-19はこれほど恐れられているか?〜過度に恐れる必要はないが、決して敵を甘くみてはいけない!(後)
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大阪大学第元総長 平野 俊夫 氏
通常はワクチン接種と自然感染の両方合わせて集団免疫閾値を獲得すると感染が終息に向かうことになります。しかし新型コロナウイルスに対するワクチンが現在存在しないという状況下では、約6割の人が自然感染して免疫を獲得しなければ終息に向かわないことになります。これが、イギリスやドイツの首相が1~2年かけて、国民の6~7割が感染するだろうと言っている根拠です。
現実的な問題として、何もせずに放置すれば急激に感染者が増加する代わりに終息に向かう期間も短くなりますが、その間に多くの人が重症となり医療機関が対応できなくなり、その結果としてイタリアで起こっている医療崩壊により多くの人が死亡することになります。これを防ぐために、隔離などで感染の広がりのスピードを穏やかにしていくという政策がさまざまな手段で講じられています(テレワーク、自宅隔離、イベント中止、都市封鎖や広域地域封鎖など)。
今回の新型コロナウイルスのケースでは、ワクチンがないので、60%の人が感染するまで終息しないことを意味します。これを日本に当てはめると1.2億の60%すなわち7,200万人が感染しなければ終息しません。死亡率を仮に1%としても72万人がなくなります。3.5%なら252万人が亡くなる計算になります。世界の人口を仮に70億とすると、42億が感染し、1.9億人(死亡率4.6%とすると)が死亡することになります。
ワクチンが存在すれば多くの人に人工的に免疫を付与できますので、当然感染して発症する人は激減します。現在の季節性インフルエンザはワクチンと自然感染を合計して免疫のある人の割合が集団免疫閾値(季節性インフルエンザでは33~50%)を達成することにより感染者の数がある一定以内に抑えられています。
以上のように、たとえ死亡率が高くてもワクチンがあれば集団免疫閾値をワクチンにより達成することにより発症者の数を減らすことにより死亡する人の数を減らすことができます。このようにして人類が克服した典型例が天然痘です。人類の歴史に脅威を与えていた天然痘はワクチン開発により20世紀に世界から撲滅することができました。
ちなみに、さまざまな感染症のRoは以下のようです。新型コロナウイルス:1.5~2.5—>H=30%~60%、
季節性インフルエンザ:1.5~2->H=33%~50%、
はしか:12~18—>H=92~94%、
百日ぜき:5~17—>H=80~94%、
天然痘:5~7—>H=80~86%感染症の脅威は、死亡率とRoにより決まります。さらにワクチンがあれば集団免疫閾値を達成することが容易になります。
治療薬がないことの意味
抗ウイルス薬があれば感染しても軽症で済みます。また重症呼吸器不全の治療薬があれば死亡者の数を限りなく少なくできます。治療薬はウイルス感染により引き起こされる病態を軽減しますが、治療薬がウイルスを完全に追い出すわけではありません。治療薬には、(1)ウイルスの増殖、(2)ウイルスの細胞へ感染、(3)細胞内からウイルスが出る(結果としてほかの細胞に感染)、などのそれぞれのステップを抑制する抗ウイルス薬や、重症呼吸器不全の治療薬があります。
抗ウイルス薬は体内でのウイルスの増加速度を抑制することができますが、単独でウイルスを完全に追い出すのは無理です。たとえば、生まれながらに免疫を欠損している人は、あらゆる抗生物質や抗ウイルス薬を使用しても一年以内に感染症でなくなります。
では、抗ウイルス薬はなにをしているかというと、ウイルスの増加速度を抑制して、免疫が活性化するまでの時間稼ぎをしています。最後に免疫が働き、ウイルスを体から完全に追い出します。すなわち治療薬はあくまでも免疫が活性化されるまでの間、時間稼ぎをしているにすぎません。もちろん、治療薬があることにより死亡率を著しく下げることができるので、1日も早い治療薬の開発が望まれます。ということで、日頃の生活において睡眠を十分にとるとともに、過労を防ぎ、栄養価の高い食事に心がけて免疫力を十分に維持することを心がけてください。
最後に
新型コロナウイルス感染症の深刻さを理解していただけたと思います。やはり現実を見据えて行動をすることが重要です。新型コロナウイルスの深刻さに関して私の見解が間違っていれば良いとは思いますが、現実逃避は避けなければなりません。少なくともいえることはこの先1~2カ月で終息するものではないということです。以上の私の見解が誤りであり、夏には世界中で終息していれば本当に良いと思いますし、そのように心から願っています。しかし覚悟はしておかなければなりません。そしてそのことを頭に考え、行動しなければなりません。
しかし、幸いにもはしかのように空気感染ではなく、飛沫感染なので、手洗いを励行して、3条件を厳格に実行すれば感染は防ぐことが可能です。過度に恐れる必要はありません。あくまでも冷静な行動が求められます。
(了)
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