2024年12月22日( 日 )

コロナ対策と鉄道

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 コロナウイルス蔓延にともなう緊急事態宣言により、「外出の自粛」が要請され、安倍首相は「人との交流の8割削減」を打ち出した。国土交通省は、「可能な限り運行本数を維持して、公共交通としての利便性を維持すべき」という考えである。結果として、各鉄道事業者は“空気輸送”を実施しており、銚子電鉄などは、完全に経営危機に陥っている。

 筆者は、コロナのリスクはあるが、経済活動も徐々に再開しないと、失業者の増加による自殺者が増加するのではないかと懸念している。以下に通勤用の鉄道、新幹線などの都市間鉄道というかたちで分け、コロナのリスクを軽減しつつも、鉄道事業を活性化させる方法について、言及したい。

通勤用の鉄道

 通勤用の鉄道だが、首都圏の朝のラッシュは、コロナの発生前と比較して、大幅に緩和されている。鉄道事業者は、絶えず換気を実施しているだけでなく、運行が終了した深夜などにつり革や手すりなどの消毒も実施している。
 利用者も、マスク着用で乗車していることから、事業者と利用者の双方がコロナウイルスに対する危機を、共有しているように感じる。

 昼間は、1両に2~3名程度しか、利用者がいなかったりするが、運行本数を削減したりすれば、利用者に迷惑をかけることになるうえ、テレワークを奨励したとしても、サービス業や医療関係者などは、出勤せざるを得ない。そのため運転本数を減らすと、「三密」の状態になるため、運行本数は維持しなければならない。

 最近、大阪府大東市のプラスチックメーカーが、コロナウイルスが死滅しやすい銅を混ぜ込んだつり革などの製品化に成功している。そこで車両のつり革などを、銅が入ったつり革などに置き換えると同時に、鉄道事業者のHPでは「絶えず換気を行っており、『三密』にならない状態にしている」旨や、「人と接触しただけでは、コロナウイルスに感染しない」旨、「乗車を終えた後には、手を石鹸で洗う」という旨を訴え、少しでも安全な輸送を実現させる必要がある。

新幹線・在来線などの特急列車

 新幹線などの都市間鉄道であるが、「外出自粛」の要請による緊急事態宣言の発令により、新幹線などは1両あたり3~5名程度の利用者しかいないこともある。在来線の特急になるが、東京~伊豆急下田・修善寺を結ぶ「踊り子」も、10両編成で運転しているが、グリーン車と普通車指定席車には乗客が皆無であり、自由席に3名程度が乗車している「悲惨な状況」に陥っている。

 新幹線や在来線特急は、通勤電車とは異なり、普通は立ち客が出るような混雑もないため、新幹線であれば16両編成を12両編成に、在来線特急も編成を短くするなどして、運行経費を下げる方法を、模索する必要がある。
 これにより電気代が削減されることにはなるが、抜本的な経費削減にはほど遠い。しかし、少しでも経費を減らすことは重要なことである。

 座席指定席は、新幹線では「三密」を避けるため、2人掛けの座席は窓側のみ、3人掛けの座席は、窓側と通路側のみ、販売するようにしたい。在来線の特急などは、窓側のみを販売するようにし、「三密」を避ける必要がある。

 この際、新幹線や在来線特急も「全車座席指定」とするが、自由席を利用していた人の負担を軽減するため、「立席特急券」を発行して対応したい。この際、自由席の利用を前提とした、各種企画乗車券類は使用できなくなるが、このような状況下では、「三密」を避けるかたちで安全性を担保し、かつ鉄道事業者も増収を図る必要がある。

個室車両の重要性

 鉄道車両の車内は、新幹線・在来線の特急列車、通勤電車を問わず、絶えず強制的に換気を行って、「三密」を避ける努力がなされている。筆者は2020年4月18日に、熱海~品川まで、「サフィール踊り子」に乗車したが、この時は価格面で割高なグリーン個室は、半分程度埋まるなど、人気が高かった。

 筆者は、平素から個室車は、「プライバシーの維持」だけでなく、パニック障がいの人も安心して移動できるため不可欠だと思っていたが、コロナウイルスが蔓延している時には、他人と接触することがない、安全な輸送手段であると感じた。

個室の寝台夜行列車こそ、最も安全な輸送御手段

 高輪ゲートウェイ駅では、「サンライズ瀬戸・出雲」の車両が、田町電車区に引き上げられている様子を見た。「サンライズ瀬戸・出雲」は、車両の大半が個室寝台車である。コロナウイルスが蔓延している時は、長距離をもっとも安全に、かつ安定して輸送が可能な輸送手段は、個室の寝台夜行列車となる。

 かつて寝台夜行列車は、日本国中で運転されていたが、新幹線や航空機の発達や高速バスの居住性の改善が進む一方、車両の老朽化などを理由に廃止され、現在では「サンライズ瀬戸・出雲」しか、運転されていない。

 「サンライズ瀬戸・出雲」は、従来の客車列車とは異なり、電車寝台であると同時に、大半がさまざまなタイプの個室寝台から成り立っているため、居住性や安全性が高く、高い乗車率を誇っている。

 コロナウイルスが蔓延したため、東京や大阪を発着する高速バスが運休になってしまい、利用者は新幹線などで移動することを、嫌がるようになってしまった。

 そうなると長距離を安全で、かつ安定して移動が可能な輸送手段は、個室の寝台夜行列車となる。つまり危機管理上の理由から必要になったといえる。また利益率は、昼間の特急列車と比較すれば良いとはいえないが、列車に魅力があれば、景気の変動を受けにくい列車である。コロナウイルスの蔓延を機会に、個室の寝台夜行列車として、復活させることが不可欠になった。

結び

 鉄道事業者は、自社のHPで「車内は強制換気を実施している」「個室車両は、コロナに感染しづらい」「長距離を安全に安定して移動が可能であるのは、『サンライズ瀬戸・出雲』である」という旨を、大々的に訴えて、固定費だけでも賄えるようにしなければならない。

(つづく)

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