新型コロナ後の世界~「将棋」を通して俯瞰する!(1)
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棋士九段・日本将棋連盟常任理事 森下 卓氏
「新型コロナウイルス」後の世界は一変し、先が見えない時代が到来するといわれる。しかし、先が見通せないからと言って、不安になってばかりいては、私たちは前に一歩も進むことができない。今後の羅針盤となる、何か良い知恵はないものだろうか。
森下卓・棋士九段・日本将棋連盟常任理事に話を聞いた。陪席は山川悟・東京富士大学教授(経営学部長)である。山川氏はマーケティング論が専門だが、一方で詰将棋作家としての顔をもつ。東京富士大学は正規科目として「将棋」を開講している。将棋連盟にも新型コロナの大きな波が押し寄せてきました
――本日は「新型コロナウイルス」(以下、新型コロナ)後の世界について、文化、社会の面からいろいろとお話をお聞きしたいと思っております。
森下 卓氏(以下、森下) 新型コロナは昨年12月に中国の武漢で発生、第2のSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群) と言われながらも、当初は多くの日本国民は軽く受け止めていたのではないかと思います。私は昨年の秋頃から将棋連盟の「研修会」(「奨励会」(※)を目指す少年少女の組織で、現時点では、東京、名古屋、大阪、福岡の4カ所に支部がある)を立ち上げるために、頻繁に札幌に出張していました。新型コロナ騒動が起きる前は、飛行機は常に満席でした。騒動発生後の2月20‐21日が最後の札幌出張でした。この時点では、満席ではありませんが、ガラガラに空いていたという印象はありませんでした。
3月28‐29日には、将棋連盟の「将棋普及指導員試験」(アマチュア資格)の監督で福岡に出張しました。この時点でも、人はさらに少なくはなっていましたが、やはり飛行機の席がガラガラに空いていたわけではありませんでした。日本列島全体が急展開して大騒ぎし始めたのは「緊急事態宣言」(4月7日)直後からのことだと思います。
将棋連盟にもその大きな波が押し寄せてきました。とくに「3密」(密閉・密集・密接)の回避には困りました。将棋は、対局中は原則無言ではありますが、相手との距離はわずか50cmです。対局数の制限が要求され、タイトル戦(名人戦、棋聖戦など、観戦者が多くなるため)は延期につぐ延期となりました。たとえば、対局は広い部屋(最大12畳)であっても、同時間帯には、1対局(部屋には対戦者2人と記録係、大きな対局の場合は観戦記者も)しか行うことができなくなり、1日に行える対局数はわずか5局程度になりました。ちなみに碁の日本棋院はすべての対局を中止する措置をとりました。
「感想戦」がものすごく短縮され、「道場」も封鎖された
森下 プロの将棋には「感想戦」(対局後に開始から終局まで、またはその一部を再現し、対局中の着手の善悪や、その局面における最善手などを検討すること)がつきものです。しかし、これも原則中止(実際には最大限短めに実施)になりました。対局は10時間を超えても無言で進行できますが、感想戦(1時間~2時間)では、話し合いをしながら、進めざるを得ないからです。これには、大変に困りました。
プロ同士の「感想戦」については、時間を短くしても、双方ともポイントがわかっているので問題はありません。しかし、指導対局の場合は、指導棋士と対戦相手のレベルが大きく違うため、懇切丁寧な感想戦が必要とされるからです。また、将棋会館の「道場」も閉鎖されました(6月1日から再開)。
※注:奨励会
プロ棋士を目指す者が所属する研修機関。正式名を「新進棋士奨励会」といい、日本将棋連盟の東京・大阪の両本部に置かれている。年1回の入会試験に合格するには、最低でもアマチュア四段の実力が必要といわれる。^(つづく)
【金木 亮憲】
<プロフィール>
森下 卓(もりした・たく)
1966年北九州市生まれ。将棋棋士(九段)・日本将棋連盟常任理事。花村元司九段門下。タイトル戦登場6回、棋戦優勝8回、竜王戦1組16期、順位戦A級10期。居飛車党の正統派で受けの棋風。森下システムを考案し、升田幸三賞特別賞を受賞。棋界の超大御所、大山康晴十五世名人に対し無類の強さを発揮し、通算成績は6勝0敗(大山が生涯一度も勝てなかった唯一の棋士)。優勝は、全日本プロトーナメント1回(第9回-1990年度)、日本シリーズ2回(第28回-2007年度・第29回-2008年度)など多数。将棋大賞として、2000年に将棋栄誉賞(通算六百勝達成)、2010年に将棋栄誉敢闘賞(通算八百勝達成)を受賞。
著書に『将棋基本戦法 居飛車編』(日本将棋連盟)、『8五飛を指してみる本』(河出書房新社)、『森下の対振り飛車熱戦譜』(毎日コミュニケーションズ)、『なんでも中飛車』(創元社)など多数。
山川 悟(やまかわ・さとる)
1960年東京都生まれ。法政大学法学部卒。東京富士大学教授(経営学部長・学務部長・経営学研究所所長)。広告会社のマーケティング部門において、広告・販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わり、2008年より現職。専門は、マーケティング論、創造性開発(企画力育成、事業モデル開発支援など)、コンテンツビジネス論。武蔵野美術大学講師。
著書に『応援される会社』(光文社)、『コンテンツがブランドをつくる』(同文館)、『不況になると口紅が売れる』(毎日コミュニケーションズ)、『創発するマーケティング』(日経BP企画)、『事例でわかる物語マーケティング』(JMAM)、『企画のつくり方入門』(かんき出版)などがある。
詰将棋作家としての作品にスマートフォンアプリ「山川悟の詰将棋1~3」(空気ラボ)。関連記事
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