新型コロナ後の世界~「信頼の絆と弱者への労わりの心」を回復!(5)
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武蔵野大学客員教授・光輪寺住職 村石 恵照 氏
今人類は、「パーフェクトストーム」(複数の厄災が同時に起こり、破滅的な事態に至ること)の洗礼を受けており、この地球は前代未聞の嵐に飲み込まれようとしている。「新型コロナ」後の世界の風景は、今生きている私たちの誰もが見たこともない、経験したこともない、考えたこともないものになる。そこでは、今までのように、現実の問題を唯々紡いでいくだけでは、一向に心の平穏は得られないし、未来も見えて来ない。
村石恵照・武蔵野大学客員教授・東京仏教学院講師・光輪寺住職に話を聞いた。村石先生は20世紀文学の最高傑作『1984年』の著者ジョージ・オーウェルの研究者でもある。IMFは、新型コロナ後の世界について、2008年のリーマン・ショックを超え、1929年の世界大恐慌(オーウェルの生きた時代)に迫るとの予測を発表した。
1984年、ロンドン大学のオーウェル研究会に日本人で唯一人参加
村石 これまで、「オーウェルブーム」は3度ありました。最初のブームは『1984年』発刊直後の1949年‐50年です。第2次ブームは通称「オーウェル年」といわれる1984年です。この年、私は日本人で唯一人、ロンドン大学で行われたオーウェル・シンポジウムに出席し、オーウェル研究の第一人者のイギリスの政治学者バーナード・クリック氏にお会いしました。第3次のブームはトランプの大統領当選の2016年から現在まで継続中です。
『1984年』の一般的評価は「倒錯社会」および「監視社会」(一定の権力を持つ個人や組織によって個人の行動が常に監視されている社会)というものです。監視社会のイメージは、PCもインターネットもなかった時代であり、すべての部屋にカメラのある世界が描かれています。また、カメラなどの直接的監視の他に、住民記録・信用情報・医療記録などの個人情報の監視も含まれます。オーウェルはこの本のなかで全体主義に警鐘を鳴らしています。
国民の語彙や思考を制限し、支配を盤石なものにすることである
村石 『1984年』のキーワードは「ビッグ・ブラザー」と「ニュースピーク」です。ビッグ・ブラザーとは、監視社会を支配する独裁者のことですが、この独裁者とは誰のことかはわかっていません。
もう1つのキーワードは「ニュースピーク(Newspeak、新言語)」です。ニュースピークとは、人為的に加工された言語です。作中の全体主義体制国家が実在の英語を基につくった新しい英語のことです。その目的は、国民の語彙や思考を制限し、党のイデオロギーに反する思想を考えられなくするためです。国民の思考を支配するために、辞典の改訂版が出るたびに旧語法に由来する語の数を削減し、複雑な思考ができないように単純化しています。
トランプ大統領就任後の2017年、『1984年』はアマゾンの第1位に
村石 また、オーウェルが作中で扱ったニュースピークと二重思考の概念は、アメリカのトランプ大統領にかかわる「オルタナティブ・ファクト」(代替的事実)や「フェイクニュース」とオーバーラップするところがあります。そのためか、トランプ大統領が就任した2017年1月には、オーウェルが亡くなって約70年が経過していたにも拘わらず、『1984年』は米国でアマゾンの書籍売上トップ10に躍り出て、25日には第1位になりました。
オーウェルが考えていた「監視社会」は、現在の中国やロシアなどでわかり易く行われているものではなく、むしろアメリカやイギリスなどの自由主義陣営諸国で、自由主義の名のもと、表面上はとても明るく見える社会において、密かに行われている監視社会といってもよいでしょう。ニュースピークの解説には、「人に不信感をもたせるためには、どのような言語操作をすれば良いのか」が暗示的に書かれています。
私は、日本を含めて、自由主義陣営、国連常任理事国の民主主義国の方が、とくにインターネット社会において、間違いなくその方向に進んできていると感じています。しかし、同時に、それを鋭く批判しているのも民主主義国家なのです。ここが悩ましいところです。
(つづく)
【金木 亮憲】
<プロフィール>
村石 恵照(むらいし・えしょう)
武蔵野大学客員教授・東京仏教学院講師・光輪寺住職。外国政府機関勤務、出版社経営、英文毎日コラムニストなどを経て武蔵野大学政治経済学部教授(2012年3月まで)。日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)副会長。研究領域は仏教学・日本文化論・イギリス思想(ジョージ・オーウェル)など。
論文・著作として”A Study of Shinran's Major Work; the Kyo-gyo-shin-sho”『東洋学研究』第20号、『旅の会話集(15)ハンガリー・チェコ・ポーランド語/英語 (地球の歩き方)』、『仏陀のエネルギー・ヨーロッパに生きる親鸞の心』(翻訳)、『オーウェル―20世紀を超えて』(共著)、「いのちをめぐる仏教知のパラダイム試論」『仏教最前線の課題』、『Gentle Charm of Japan』など多数。関連記事
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