検証「豊洲市場裁判」 東京地裁、日建設計の耐震偽装に踏み込まず 原告仲卸業者の請求を却下(前)
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豊洲市場水産仲卸売場棟の建築基準法令違反について、仲卸業者5社が建物の使用禁止と除却を求めていた訴訟は、9月17日(木)午後1時30分より東京地裁419号(清水知恵子裁判長)にて「本件訴えをいずれも却下。訴訟費用は原告の負担」という判決が言い渡された。
建築基準法令違反の技術論に触れていない審理および判決
原告の請求は「東京都知事は、建築基準法18条25項に基づき、東京都知事に対し、建築物(豊洲市場水産仲卸売場棟)が建築基準法令に違反する旨を通知し、同建築物全部を直ちに使用停止とし、相当の猶予期限を付して除却するよう要請せよ」というもの。
判決理由として、東京地裁の清水裁判長は、「行政庁である被告・東京都が、豊洲市場の管理者である東京都に対して処分を要請することについて、国または都道府県が所有または管理する建築物に関しては、建築基準法9条1項(除却の命令・要請)の適用を排除し、特定行政庁がその建築物が建築基準法令に違反し9条1項に該当すると認めても是正命令をすることはできない」という趣旨の理由を記述している。
建築基準法令違反という建築技術面が争点の1つとなっているはずだが、東京地裁は、被告東京都の主張をすべて受け入れる一方で、原告側の主張には触れず、技術論に踏み込んでいない。これは、司法たる東京地裁が 行政たる東京都に忖度した由々しき判決であるとともに、技術論を戦わすはずの裁判のレフェリーが素人という点も技術論に踏み込めない一因となっているのではないだろうか。
豊洲市場の設計偽装=建築基準法令違反
最初に日建設計による豊洲市場水産仲卸売場棟の建築基準法令違反を指摘したのは、構造設計一級建築士の仲盛昭二氏。仲盛氏は、マスコミからの依頼により豊洲市場水産仲卸売場棟の構造計算書のコピーを見る機会があり構造計算書を確認したところ、設計の偽装が判明したため、東京都や設計者である日建設計に指摘をしたが反応がなかったので、東京都に建築基準法令違反の是正を求める訴訟を提訴した。しかし、この訴訟は、仲盛氏が東京都民ではないため原告不適格という理由で却下された(2018年3月)。
その後、仲卸業者5社が東京都に豊洲市場の使用禁止と除却を求める訴訟を提訴していた。今回の判決を踏まえて、構造設計一級建築士の仲盛昭二氏に豊洲市場の裁判を振り返っていただいた。
―豊洲市場の建築基準法令違反をめぐる裁判は、原告の訴えを却下するという判決となりました。
仲盛 豊洲市場の裁判では、設計者である日建設計が犯した建築基準法令違反が大きな争点となるはずでした。裁判所が法令違反を確定させなければ、使用禁止や除却という判断ができないからです。しかし、東京地裁は入口論争だけに終始し、技術論に一切踏み込むことはありませんでした。
―この裁判で争われた建築基準法令違反は、具体的には どういう違反だったのでしょうか?
仲盛 建築基準法令違反は、主に「層間変形角が規定以下である」「保有水平耐力計算の係数が偽装されている」「1階柱脚の鉄量が規定の半分である」の3点です。以下、少し詳しく説明します。
(1)層間変形角が建築基準法を満たしていない(建築基準法施行令第82条の2違反)。
豊洲市場水産仲卸売場棟の構造設計では、もっとも重要な基準項目の1つである「層間変形角」が建築基準法施行令に定められている「200分の1以内」の規定に反していることを日建設計は認めていて、構造計算書に手書きで言い訳めいたコメントを追記しています。
(2)保有水平耐力計算における係数を不正に低減しているので安全が確認できない。東京都の市場問題プロジェクトチーム(PT)における日建設計の説明では、既製品柱脚を採用した場合の保有水平耐力計算における構造特性係数(Ds)について「割増しは不要」と説明しており、東京都も日建設計の見解を容認しています。
問題なのは、「Dsの割増し」ではなく「Dsが不正に低減された設計が行われていること」です。これは、国交省監修の「建築物の構造関係技術基準解説書」(2007年版:豊洲市場の設計当時は2007年版)に規定されています。
建設省告示(昭和55年)
第1792号の意義
同告示は構造別にDs値の算定方法を規定。鉄骨鉄筋コンクリート造は、鉄筋コンクリート造よりもDs値を0.05低減した値となっている。すなわち、鉄筋コンクリート造としてDs値を算定する場合には低減は適用できないということである。第八二条の三
建築物の地上部分については、第一号の規定によって計算した各階の水平力に対する耐力(保有水平耐力)が、第二号の規定によって計算した必要保有水平耐力以上であることをたしかめなければならない。保有水平耐力計算とは、簡単にいえば 大規模な地震の際に内部の人間が安全に避難できる時間を稼げる壊れ方を設計することであり、建物がもっている力「保有水平耐力」が地震に耐えるために必要な力「必要保有水平耐力」を上回っていれば、避難に必要な時間を稼ぐことができると判断されます。この保有水平耐力と必要保有水平耐力の割合を「保有水平耐力比」といい、一般的に「耐震強度」と理解されています。
豊洲市場など用途が公設市場の場合には用途係数が1.25と条例で定められており、保有水平耐力比が1.25以上であれば最低限の強度が確保されていることになります。
この建物は鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)ですが1階柱脚(柱の根元)が埋め込まれていない形式なので、1階のDsは鉄筋コンクリート造(RC造)のDsを採用しなければならず、SRC造の低減を適用することはできません。
水産仲卸売場棟の構造計算では1階も含め各階ともDsは0.3となっており、これはSRC造として低減されたDsです。1階については低減してはいけないので、0.05の低減を適用せずDsは0.35とすべきです。日建設計の構造計算による保有水平耐力比1.34はDsをSRC造として低減しているので「0.3/0.35」の比率で計算をすると1.34×(0.3/0.35)= 1.14となり、条例で定められた公設市場の用途係数1.25を下回るので、現状のままでは 豊洲市場水産仲卸売場棟は公設市場として使用できないということです。
(3)鉄骨鉄筋コンクリート造である建物の1階の柱脚の鉄量が規定の半分程度しか存在しない。
建設省・国交省監修の建築物の構造規定や技術基準解説書など建築確認審査の際の判断規準において、「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の1階鉄骨柱の柱脚がピン柱脚である場合、柱脚の鉄量(鉄筋(主筋)とアンカーボルトの断面積の合計)が、柱頭の鉄量(鉄骨と鉄筋(主筋)の断面積の合計)と同等以上でなければならない」と規定されていますが、豊洲市場水産仲卸売場棟の柱脚の鉄量は規定の半分程度(56%)しか存在していません。
東京都は裁判において「56%でなく59%である」と主張しており、「鉄量が41%不足していること」を東京都が法廷で認めていることになります。
(つづく)
【桑野 健介】
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