2024年11月24日( 日 )

『007』のジェームズ・ボンド役 ショーン・コネリーが愛したバハマの魅力(2)

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国際政治経済学者 浜田 和幸

 映画俳優のショーン・コネリーが90歳の生涯を閉じた。10月31日のことである。世界中の多くのファンがその死を悼んだに違いない。何しろ、アメリカの大衆誌「ピープル」がコネリーのことを「生存するもっともセクシーな男」に選んだのは、彼が59歳の1989年のこと。そのニュースに接し、コネリーが唸った言葉が振るっていた。「セクシーかどうかは死んだ時に決まる」。要は死に際において、あるいは、死に直面したときに、その人物の本当のセクシーさというか魅力が定まるというわけだ。

バハマ近海に沈む財宝

 バハマは日本から遠く、ピンとこない人も多いに違いない。アメリカのフロリダ半島の先に位置するカリブ海。そこに浮かぶバハマは人口40万人に満たない小さな島国だ。700あまりの小島と2,400の岩礁は、ほとんどが珊瑚礁で、青い海と空、そして美しい島々が織りなす幻想的な雰囲気が、この国の魅力である。

 ショーン・コネリーが主人公のジェームズ・ボンド役を演じた映画「007シリーズ」の多くの作品が、このバハマで撮影された。コネリーはこのすばらしい自然環境がとても気に入ったらしく、現役を退いた後は、このバハマに家族を呼び寄せ、終の棲家にし、ゴルフ三昧の優雅な暮らしを営んできた。

 スコットランドの独立に生涯、熱い思いを寄せ、腕には「Scotland Forever」の入れ墨を掘っていたほどだ。イギリスからの独立が叶った際には、生まれ育ったスコットランドに帰り、人生を全うしたい、と望んでいたようだが、その夢は叶わなかった。しかし、胸の内では「常に故郷のことを思い描いていた」とのこと。そんなコネリーが魅了されたバハマとはどんな国なのか。日本からは想像できないような隠された宝の島と言っても過言ではない。

 なぜなら、南海の楽園のようなこの国には、自然環境のほかにもう1つ、すばらしい資産が隠されているからだ。何かといえば、近海の底に沈んでいる財宝である。沈没船とともに眠る文字通りの「お宝」だ。これが、近年、バハマの大きな魅力として浮上してきたのである。

 15世紀の大航海時代以降、スペインなどヨーロッパ諸国から、多くの船が新大陸アメリカに向かって船出した。ことに18~19世紀になると、新大陸での影響力を拡大するための資金として、大量の金銀財宝が積まれていた。しかし当時はまだ航海術がそれほど発達しておらず、船自体も頑丈にできていない。気象予測も経験に頼るしかなかったため、ハリケーンに遭遇して難破する船は後を絶たなかった。

 また、海賊に襲われることもあったようだ。乗組員は海賊に金銀財宝をもっていかれるくらいなら、と全部を海に投げ捨て、自分たちも一緒に沈んで運命をともにしたことも多かったらしい。バハマ政府の調査に限っても、バハマ近海には金銀財宝を積んでいたと思われる沈没船が500隻以上も眠っている。

 これらを回収することによって、バハマに莫大な財宝が手に入る。刻印付きのスペインの金貨など、コレクター垂涎の物もあり、もしオークションに出せば、1隻あたりおよそ数億円から数十億円、時には数百億円分の財宝が手つかずのまま沈んでいる計算になる。日本では知られていないが、バハマの近海は、そんな沈没船の宝庫なのである。

 当然のことだが、バハマ政府はすでにこうした財宝の引き上げ作業に着手している。とはいえ、バハマ政府が秀逸なのは、「一時の利益のためにオークションなどに出して売却することは一切しない」という方針を明らかにしていることであろう。歴史的にも貴重な財宝として、博物館など展示施設での公開を念頭に置いているわけだ。美しい自然環境に加えて、歴史的にも貴重な遺産を間近に見られるとなれば、世界中から見学者や観光客が増えると想定しているのである。

 バハマ近海に眠る財宝は、そのすべてを回収することができれば1,000億ドル(10兆円超)は下らないと言われている。はっきりと存在が確認されていないものを含めれば、その額はさらに膨らむだろう。たとえば、20世紀初頭に沈没したとされるロシアの軍艦など、1隻だけで1,000億ドルをはるかに上回る金の延べ棒を載せていたという記録さえあるほどだ。

 もちろん、500隻を超える沈没船を残らず引き上げることができるかどうかはわからない。だが、潜在的な価値としては少なくとも1,000億ドル相当分が見込まれることは衆目の一致するところである。しかも、メタンハイドレートやレアアースといった天然資源ではなく、かつて7つの海を支配したイギリスやスペインの財宝という、はっきりと資産価値の見込めるものが眠っている。バハマ政府はそれらを引き上げて観光資源として活用するという明確な方針を打ち出しているわけだ。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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