コロナとニューヨーク~チャイナタウンとの再会(後)
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大嶋 田菜(ニューヨーク在住フリージャーナリスト)
チャイナタウンは、週末は混んでいても、平日は比較的空いている。狭い通りで忙しくものを運ぶお年寄りにぶつからない限り、余裕をもって歩けるほどだ。スーパーや雑貨屋では中国系の人々が買物し、商店では従業員の中南米の男性らが品物を並べている。
午後2時を過ぎると突然、子どもたちの叫び声がして、その声はコオロギの鳴き声のように広がって街の騒音に浸み込んでいく。3週間ほど前に公立学校がようやく再開したが、全員が一斉に登校するのではなく、クラスを3つに分けて、7、8人ずつのグループで授業をするため、学校に通うのは週に1~2回ほどだ。
以前は学校が嫌いだったが、今では行きたがっている、という子どもも多いようだ。8カ月ぶりに学校に行くのだから、楽しみであることも当然だろう。たった8人の小さなクラス、たった週2回の登校ではあるが、ニューヨークの子どもたちは友達と再会し、触れ合い、先生との関係を楽しめるようになった。
しかし、この状況を続けるために、公立学校では毎月、生徒と先生にPCR検査を行っている。綿棒を鼻の両穴に入れて、5秒数えてから出す検査であり、その結果は48時間後に学校や親に届く。もし学校からコロナ感染者が1人でも出てしまったら、そのクラスの先生や生徒は全員が2週間、家にとどまることになる。加えて、その子どもたちと先生の家族や親戚や友人という普段顔を合わせているすべての人にも報告され、彼らも外出できなくなる。アメリカでは、この措置をコンタクト・トレーシングと言う。
もし学校内で2つのグループから感染者が出た場合、全校が48時間閉鎖される。誰でも無料で受けられるPCR検査でニューヨーク市全体の3%が陽性とされた場合、市全体が閉鎖される。感染者が1,000人に1人を超えないことが基準であるようだ。
チャイナタウンの勢いは野原の雑草のようにたくましく、その街は東西南北に伸び続けている。リトル・イタリーの8割、ロウアー・イーストサイド、ボワリー、ソーホー、ウォール・ストリートの一部などが今や中華料理店や中国系企業のものとなっている。
チャイナタウンの拡張は留まるところを知らず、ロウアー・イーストサイドの端にあるマンハッタンの第2のプエルトリコ人街、アルファベット・シティにも広がろうとしている。アルファベット・シティは、今や中華街とプエルトリコ人街が出会う地点であり、彼らはお互いを無視しながら共存しているため、この辺りで聞こえる子どもたちの声は、英語のほか、中国語、スペイン語だ。彼らのマスクの裏側から出てくる小さな声や大きな声には、プエルトリコ人街のフライドチキンの匂いと中華街の野菜炒めの匂いがゆっくり、じわじわと混ざり合っていく。
(了)
<プロフィール>
大嶋 田菜(おおしま・たな)
神奈川県生まれ。スペイン・コンプレテンセ大学社会学部ジャーナリズム専攻卒業。スペイン・エル・ムンド紙(社内賞2度受賞)、東京・共同通信社記者を経てアメリカに渡り、パーソンズ・スクールオブデザイン・イラスト部門卒業。現在、フリーのジャーナリストおよびイラストレーターとしてニューヨークで活動。関連記事
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