2024年11月20日( 水 )

新型コロナウイルス問題で1年が終わった令和2年~日本の危機管理体制と「災害の日常化」(前)

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拓殖大学大学院地方政治行政研究科特任教授
防災教育研究センター長 濱口 和久

(1)感染の収束が見えない

 新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染者が、東京都で過去最高の888人(20年12月24日)を記録した。全国的にも感染者の増加に歯止めがかからない状態となっている。

 日本政府は20年4月7日、新型コロナの感染拡大を見据えて、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を東京に加え埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫、福岡の6府県を対象に発令した。4月16日からは全国に拡大され、5月31日まで続いたことは記憶に新しいところだ。

 今年予定されていた東京オリンピック・パラリンピックは来年に延期された。日本政府や東京都、組織委員会は感染対策を万全にして来年の開催を目指しているが、世界中で感染者が増え続けているなかで、はたして開催は可能なのだろうか。

 感染が収束するためには、ワクチンや治療薬が必要となる。しかし、これらが世界中に行き渡るには、数年はかかる。人類は当分の間、新型コロナとの闘いが続くことになるだろう。

(2)日本の危機管理体制は大丈夫か

 日本は新型コロナ以外にもさまざまなリスクを国内外に抱えている。北朝鮮の核開発・ミサイル発射、北朝鮮や中国による国家的サイバー攻撃、中国の東シナ海での軍事挑発、海外でテロに巻き込まれる可能性、甚大な被害が出る自然災害などが挙げられる。

 リスクの種類によっては、省庁間の調整が必要だったり、縄張り争いが起きたりする場合がある。その結果、初動が遅れる場合もある。新型コロナに関しては、中国・武漢市で発生当初、感染症なのか、生物テロなのか、生物兵器の流失なのか、いろいろな憶測が飛び交った。感染症ならば厚労省、生物テロなら警察庁、生物兵器なら防衛省といった具合だ。

 さらにいえば、新型コロナで混乱している日本に、中国が東シナ海で緊張状態をつくるような攻勢をかけてきた場合、二正面作戦に対応できる危機管理体制にはなっていない。

 ビル・クリントン政権時代に米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官を務めたジェームズ・ウィット氏は講演のなかで、日本の危機管理体制について次のように述べている。

 「日本は、多くの異なる省庁が異なる責任をもっているようである(中略)。どこが総括的な計画をもっているのか、どうやって一緒に協力していくのか、どうやって資源を調節するのか。中央のレベルから実際の地方のレベルまでどのように協力し、どうやって一定の資源から最大の効果を引き出すのか。資源は限定されており、いかに無駄を省くかなどの計画はあるのかはっきりしない」(木村盛世「新聞・テレビが報じない危機を招いた厚労省の重大欠陥」『Hanada2020年4月号』)。

 まさに厳しい指摘である。

 米国は防疫(感染症対策)を国防問題と位置づけ、国家として対応している。米国には省庁の縦割り行政を排した防疫の総合機関である米国疾病対策センター(CDC)がある。医師や研究者など約1万4,000人が所属し、年間予算1兆3,300憶円(19年度)の規模で、感染症の制御のほか、生物化学兵器の研究にも携わり、軍産実務機能を有する国家安全保障上の重要機関だ。

 日本には、CDCと同じ役割を担う組織は存在しない。強いて挙げれば、国立感染症研究所はあるが、CDCとは比較にならないぐらい人員も予算も少ない組織だ。日本国内で新型コロナが収束したとしても、新たな感染症が起きる可能性がある。日本も防疫は、国防問題であるという認識に立つべきだ。

 新型コロナの感染拡大が予想された今年初め、日本政府は、災害時に海上で医療活動を行う「病院船」の活用について、調査検討を始めた。来年3月末までに報告書をまとめることになっている。病院船は、患者の診察や治療の機能をもち、手術室や集中治療室(ICU)、入院設備も備える「洋上の総合病院」である。

 日本政府は11年の東日本大震災後も一度検討したが、建造費や平時の活用方法、維持費、医療スタッフの確保などがネックとなり、建造に消極的な報告をまとめた経緯がある。現在、米国やロシア、中国などがジュネーブ条約に基づく病院船を保有している。日本も戦前は約30隻の病院船を保有しており、今回は本格的な導入を期待したい。

 また、重篤者を治療する人工呼吸器付きの集中治療室(ICU)も、日本は非常に少ない。ドイツは今年3月の時点で、2万5000床あった。これは欧州でもっとも多い。ドイツの人口10万人あたりのICUベッド数は29.2床だ。これに対し、日本は日本集中治療学会によると、5床しか確保されていないというお粗末な状態だった。これでは助かる命も救えなくなる(その後、日本国内のデータは発表されていないので、現時点の数字は不明)。

(つづく)


<プロフィール>
濱口和久
(はまぐち・かずひさ)
1968年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒。日本大学大学院総合社会情報研究科修了。防衛庁陸上自衛隊、日本政策研究センター研究員、栃木市首席政策監、テイケイ(株)常務取締役、(一財)防災教育推進協会常務理事・事務局長などを経て、拓殖大学大学院地方政治行政研究科特任教授・防災教育研究センター長を務める。

(後)

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