2024年12月23日( 月 )

新型コロナが「石油が座礁資産になる日」を早めた!(2)

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名古屋市立大学 特任教授 岡本 博之 氏

 2020年4月20日、ニューヨーク原油市場の指標となる「WTI」5月物の先物価格が史上初のマイナス37.63ドルに大暴落し、市場関係者を震撼させた。しかし、それはこれから始まる大変動の序章に過ぎなかった。英国石油大手のBPは同年9月発表のレポートで、「石油に対する世界の需要はここ数年でピークに達し、コロナ禍で減った消費は回復しない」と分析している。石油が座礁資産になる日が現実になりつつある。名古屋市立大学の岡本博之特任教授に聞いた。

アメリカは微増、中国とインドは成長、EUと日本は退行

 ――ここからは資源エネルギー論(石油)の話題に移ります。新型コロナの影響を含めて、現在の世界と日本の石油事情について教えてください。

 岡本 世界と日本の石油事情を考察・把握する場合には2つの見方があります。

 1つは、世界の約60%を占める主要5カ国・地域(US、China、India、Japan、EU諸国)の石油需要です。ここでは、BPの統計ファイル(Global Oil Demand)を参考にして見ていきましょう。

US(世界シェア19.7%)は2019年-0.1%、2008~18年で0.3%の成長。
China(同14.3%)は2019年5.1%、2008~18年で5.4%の成長。 
India(同5.4%)は2019年3.1%、2008~18年で5.0%の成長。
Japan(同3.9%)は2019年-1.1%、2008~18年で-2.3%の成長。
EU諸国(同13.1%)は2019年-0.5%、2008~18年で-1.1%の成長。

【Source:BP Stats,2020】

 もう1つは、OECD諸国(先進国)と中国・インドを含むNon-OECD諸国との比較です。

OECD諸国(世界シェア46.4%)は2019年-0.5%、2008~18年で-0.3%の成長。
2020年は-10.3%、2021年は6.30%の成長を予測。
Non-OECD諸国(同53.4%)は2019年2.4%、2008~18年で3.1%の成長。
2020年は-6.80%、2021年は5.70%の成長を予測。
→世界全体で2020年は-8.40%、2021年は6.30%の成長を予測。

【Source:IEA,Oct2020】

 主な国の最近の10年間の石油需要の推移を見ると、アメリカは微増、中国とインドは高成長、日本とEU諸国は世界的に景気が良い時でも減り続けていることがわかります。また先進国クラブのOECDは、2020年は大幅なマイナス成長、21年はプラス成長しますが、19年には達しません。今後10年間の石油需要はOECDと発展途上国の非OECDを相殺してみる必要があります。22年にならないと、世界全体でプラス成長にはならないでしょう。

石油が早晩、石炭と同じ道を歩み始めるのは間違いない

 ――大きな石油需要トレンドはよく理解できました。今回の新型コロナはこのトレンドに何か影響をおよぼしたでしょうか。

名古屋市立大学 特任教授 岡本 博之 氏
名古屋市立大学 特任教授
岡本 博之 氏

 岡本 国際線はほとんど飛んでいないので、ジェット燃料に大きな需要減(前年比9割減など)が生じています。ガソリンも、「自家用車は安全」というイメージがありましたが、節約ムードのなかでは、同じように需要減が生じています。消費者心理としても、今回のコロナ禍で世界的に大きく減った石油需要が、来年、再来年はもちろん、今後も大きく戻ることはないと思います。さらに新型コロナ後の社会、経済復興では、EUを中心にアメリカ、中国、韓国、そして日本も「パリ協定」を順守し、「グリーン・リカバリー(緑の復興)」「ビルドバック・ベター(より良い復興)」など、石油などの化石燃料を使わない脱炭素社会「ネットゼロ」(※1)への道を心がけて行くことになります。

 最近、新聞・雑誌の紙面などで躍る「石油がまもなく座礁資産になる」はとてもジャーナリスティックな表現ですが、石油が早晩、「石炭と同じ道を歩み始める」ことは間違いないとみています。石炭は戦後間もないころは「黒いダイヤ」と呼ばれ、すごい人気があり、エネルギーの絶対的主流で、約90%の市場シェアがありました。しかし、だんだん減ってきて、1980年代には石炭と石油の市場シェアは並び、その後は石油に追い抜かれていきました。

 それは、オーストラリアのように露天掘りができるところを除いて、採算が合わなくなったからです。そのため、埋蔵量はまだありますが、九州でも北海道でも、その多くは閉山しました。同じように、まず石油は天然ガスに替わり、次にその天然ガスも風力発電、太陽光発電など再生可能エネルギーに替わっていくと思われます。石油の埋蔵量はまだありますので、当分はコストパフォーマンスの良い石油だけが残り、増産され続けていくものと思われます。しかし、やがて埋蔵量を残したまま、「石油の時代」は幕を閉じるのではないかと思っています。かつて、サウジアラビアのアハマド・ザキ・ヤマニ元石油大臣は「石器時代が終わったのは石がなくなったからではない。同様に石油時代は石油が枯渇するずっと前に終わるだろう」という名言を残しています。

(つづく)

【金木 亮憲】

※1:ネットゼロ
二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。ネットゼロとは、実際に排出した温室効果ガスの量から、木やCCSなどの炭素貯蔵技術による二酸化炭素の吸収などを差し引いた結果、ゼロという意味である。温室効果ガスを発生させない再生可能エネルギーなどの急速な普及から、ネットゼロの実現可能性が出始め、各国がこのネットゼロを達成する年を相次いで定めている。 ^


<PROFILE>
岡本 博之氏
(おかもと・ひろゆき)
 山口県萩市出身。1965年、千葉大学文理学部卒業後、シェル石油(株)入社。BP Far East Ltd.社、BPロンドン本社、BPジャパン(株)を経て、99年に日本大学国際関係学部助教授に就任、その後教授に。コロンビア大学日本経済経営研究所客員研究員、日本大学大学院教授を経て2013年より名古屋市立大学(22世紀研究所)特任教授。
 専攻は国際経営論、資源エネルギー論。ワシントン州立大学経営学修士課程でMBA取得(1976年)、博士・国際関係(2007年)。国際経営文化学会副会長、日本ビジネスインテリジェンス協会常務理事、同協会エネルギー研究部会会長。

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