2024年12月23日( 月 )

菅コロナ対応3つの致命的欠陥

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を紹介する。今回は、新型コロナウイルスの感染抑制を優先せずに、「Go To事業」を推進して状況を悪化させた菅政権の失策に鋭く切り込み、政治家と官僚の罪を断罪した1月4日付の記事を掲載する。


菅首相が記者会見を行い、首都圏の1都3県を対象に緊急事態宣言を発出する方針を示した。
1月9日午前0時に発出されるとの観測記事も流布されている。
緊急事態宣言発出と併せてGoToトラベルの一時停止も延長される見通し。

菅内閣の誤誘導と優柔不断さが事態の悪化を招いている。
緊急事態宣言の最重要の機能は「メッセージ」。
感染拡大抑止に向けての強いスタンスを示すもの。
直接的効果よりもメッセージによる「アナウンス効果」が大きい。

重要なことは行動抑制である。
何よりも重要なことは無症状の感染者が感染を拡大させることを防ぐこと。
この目的を達成するには検査の拡充が必要不可欠。
この点での方針転換は示されていない。

菅内閣はこれまで間違ったメッセージを発し続けてきた。
最大の誤りはGoToの全面推進。
11月の3連休の前に感染拡大の傾向は鮮明に表れていた。
この時点で感染抑止優先の方針を明示すべきだった。

ところが、菅内閣は真逆の対応を示した。
わざわざ11月の3連休が終了するまで感染抑止のメッセージを示さなかった。
GoTo推進方針を明示したのだ。

11月25日になって「勝負の3週間」としたが、「感染拡大推進の勝負の3週間」としか受け止められなかった。
10月1日からGoToに東京が組み込まれた。
11月入り後、感染拡大傾向が鮮明になったが、GoToにブレーキをかけることが抑制された。
菅義偉首相がGoTo推進に執着し続けたのだ。

大坂、札幌がGoToの一時停止を始動させたが、これら地域を目的地とする旅行だけが停止された。
これら地域を出発地とする旅行は停止されなかった。
東京のGoToが一時停止されたのは12月22日。
これも東京を目的地とする旅行だけで東京を出発地とする旅行は停止されなかった。
12月11日に菅首相はニコ動に出演し、GoTo一時停止について、「まだ、そこは考えていない」と答えた。

菅首相がGoTo全国一時停止を表明したのは3日後の12月14日。
しかし、この発表を行ったのち、菅首相は二階俊博自民党幹事長が主催した銀座のステーキ店での8人での忘年会に出席した。
5人以上での会食を控えることを国民に求めるなかで8人による忘年会に出席した。

GoToの一時停止を表明したが、実施は2週間後だった。
一刻を争うときに2週間後の実施とは現実対応能力を失った腐敗官僚機構の対応だ。
その結果として、12月31日には東京都で1,300人を超す新規陽性者数確認が生じた。

GoToトラベルの推進は、都道府県をまたぐ人の移動を奨励するもの。
GoToイートの推進は会食を奨励するもの。
いずれも、感染が収束した段階で実施すべきもの。

感染が拡大するなかで「旅行」や「会食」を奨励するメッセージが発出されてきた。
菅首相の8人での会食も「会食推進」の強烈なメッセージになった。
二階俊博氏に至っては、「マスクをとらないと食事できないじゃないですか」と逆切れしたうえで、「会食を目的に出会っているんじゃない」と弁明を示した。
これが通用するなら、すべての国民が会食を実行して、同じ弁明を発することになるだろう。

首都圏の4知事が1月2日に緊急事態宣言の発出を要請したのだから、菅首相は1月2日、遅くとも1月3日には結論を示し、正月休み明けの1月4日には緊急事態宣言を始動させる迅速対応を示すべきだ。
1月4日に会見を開いて1月9日から実施というのも、あまりにもスピード感に欠ける。

感染拡大を危機的状況にまで拡大させた菅義偉首相の責任は重大だ。
日本の人口100万人あたりのコロナ死者数は28人。
欧米に比較すれば極めて少ない。
ベルギー 1,700人
イタリア 1,240人
英国   1,096人
米国   1,080人
日本の人口あたり死者は欧米の30分の1から50分の1。
被害の程度が大きく異なる。

東アジアのコロナ被害が軽微であるとの特徴がある。
しかし、東アジアのなかで日本の実態は極めて悪い。
同じく人口100万人あたりのコロナ死者数を見ると
台湾   0.3人
中国    3人
韓国   19人
香港   20人
日本の人口あたり死者は台湾のなんと100倍だ。

感染が拡大して、日本の1日当たりコロナ死者数が50人から60人水準に拡大している。
年率2万人ペースに拡大している。
インフルエンザよりも深刻な状況に移行している。

とりわけ、冬季は感染が拡大しやすいと考えられている。
このなかで、菅内閣はコロナ感染症の感染拡大を推進する施策を展開してきた。
明らかな人災だ。

感染収束最優先を明確に示すことが第一だ。
菅内閣の政策運営は、感染抑止を最優先するものでなかった。
感染拡大を推進してでも、旅行業界に利益を提供することが優先されてきた。

改めて菅内閣のコロナ対策の問題点を明記する。
3つの重大問題を指摘できる。
第一は検査妨害スタンスの維持
第二は利権優先のGoToトラベル
第三はコロナ対応の非柔軟性

コロナ感染症の特徴として見落とせない点が2つある。
1.非常に短期間に重篤化するケースがあること
2.無症状の感染者が感染を拡大させること
この2点を踏まえた対応が必要不可欠だ。
この観点から最重要になるのは検査の拡充。

立憲民主党の羽田雄一郎氏が急逝した。12月24日に、羽田氏の秘書が参議院の診療所に「羽田氏に症状はないが、近場の人に感染者が出た。どこでPCR検査を受けられるか」と問い合わせている。
この段階でPCR検査または抗原検査が行われて感染を確認していれば命を失うことを回避できた可能性がある。

全国でも、PCR検査が迅速に行われずに感染確認が遅れ、そのために死去する事例が多数発生している。
また、感染拡大を抑止するには、無症状の感染者を捕捉し、この無症状感染者による感染拡大を抑止することが必要になる。

いずれにせよ、PCR検査の徹底的な拡大が極めて有効であることは明白だ。
2020年度に73兆円もの補正予算による支出追加が決定されている。
この国費を活用すれば検査拡充は瞬く間に可能になる。
それを実行しないのは、検査を拡充する意思がないから。

GoToトラベル事業が最悪の経済政策であるのは、恩恵の配分が不公平極まるからだ。
票と金につながる対象にだけ財政資金を投下する方針が採られていることが問題の根源だ。
この方針を推進している主導者が菅首相と二階幹事長である。

さらに、新型コロナ感染症の指定区分が現実に即していない。
杓子定規な対応が医療崩壊を招く原因になるのは本末転倒。

菅内閣コロナ対応失敗の責任を厳しく問う必要がある。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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