2024年11月24日( 日 )

菅義偉首相の致命的欠陥とは

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「菅首相はコロナ感染収束を優先し、速やかに五輪中止の決定を正式に行うべきだ」と訴えた1月23日付の記事を紹介する。

1月21日、英紙タイムズ電子版が、ある与党関係者の話として、政府が非公式に新型コロナウイルスの影響で東京五輪の開催を中止にする必要があると結論付けたと報じた。

これについて内閣官房は22日、「東京大会に係る本日の報道について」と題するコメントを発表した。

コメントは、
「本日、日本政府が東京大会の中止を非公式に結論付けたとの旨の報道がございましたが、そのような事実はまったくございません」
というもの。

内外から東京五輪中止の見解が相次いで示されている。
各種調査は日本国民の8割が2021年夏の東京五輪開催に否定的な見解を有していることを示している。
調査によっては回答者の8割以上が開催を中止すべきだとしているものもある。

コロナ感染拡大が止まらない。
英国では、発見された変異種の死亡率がこれまでのウイルスよりも高い可能性があるとの報告も公表された。
変異種の一部に、すでに開発されたワクチンが有効でない可能性があるとの見解も表明されている。
変異種の感染力は在来種よりも著しく高いと報告されている。

WHOのマイク・ライアンが英国での変異種確認を公表したのは12月14日のこと。
菅内閣は12月28日に「先手先手の対応」として入国規制強化を発表したが、ウソだった。

日本への外国人入国の中心はビジネストラック、レジデンストラック。
菅内閣が入国規制を緩和して11月の入国者数は56,700人に達した。
5月の入国者数の34倍の水準だ。

変異種が発見され、水際で変異種ウイルスの国内流入を阻止しようとするなら、この時点で外国人の入国、日本人の海外からの帰国を厳格に遮断する必要があった。

ところが、菅首相がビジネストラック、レジデンストラックでの入国規制強化に強く反対して、1月13日まで入国規制強化を行わなかった。
批判が強まり、ようやく1月13日に規制強化に追い込まれた。

これを「後手後手の対応」と表現する。
この「後手後手対応」により、日本国内で変異種の市中感染が確認された。
菅首相の責任は極めて重大だ。

東アジア諸国・地域ではコロナ感染の被害が相対的に極めて軽微。
不幸中の幸いだ。
しかし、その東アジアのなかで日本の現状は最悪。
日本の人口あたりコロナ死者数は台湾の100倍、中国の10倍である。

このことが菅内閣のコロナ対応の失敗を明白に物語っている。
11月12日にコロナ新規陽性者数が3カ月ぶりに過去最高を更新した。
夏場に感染は低減するが、冬に向かうに連れて感染が拡大する可能性が高いことが、かねてより指摘されてきた。
その兆候がはっきりと表れ始めた。

また、人の移動拡大が感染拡大につながることは明白。
3月から5月にかけて人の移動が減少して感染が減少した。
11月に入って感染拡大が顕在化した最大の背景にGoTo全開があった。

10月1日から東京都がGoToトラベルに組み込まれた。
感染が多い東京から大量に人が全国各地に移動する。
これに連動して全国各地でのコロナ感染が拡大した。

11月16日には新規陽性者数が初めて2,000人を突破した。
11月21日からの3連休を前に、GoToを停止するラストチャンスだった。
この機会に菅義偉首相はGoTo全面推進の旗を振った。

菅首相がGoToを一時停止したのは12月28日である。
日本のコロナ死者数が1日100人を超える水準に拡大している。
年率3万人を超える死者数だ。

感染が確認されても、入院も宿泊療養施設への収容もされずに放置されたまま死亡する事例が増加している。
国民は放置され、死に追いやられている。

五輪を開催できる余地はゼロだ。
速やかに五輪中止の決定を正式に行うべきだ。

日本政府は訪日外国人の数を年間4,000万人に拡大させるとしてきた。
ところが5月の訪日外国人の数は1,663人に減った。
年率換算で1万9,956人。
政府目標の0.05%だ。
これを菅首相は再拡大させようとしている。

外国人観光客を日本に流入させる。
低賃金労働力を日本に流入させる。
これが訪日外国人を増大させる目的だ。

ビジネストラック、レジデンストラックでの外国人流入を規制することに対して菅首相が強硬に反対したのは、低賃金労働力の流入を継続しようとしたからだ。
低賃金外国人労働力流入で利権を得ている業者の意向を重視したのだとも考えられる。

コロナ感染拡大を止めることと低賃金労働力の流入のどちらを優先するのか。
菅首相は正しく優先順位を設定できないという致命的欠点を有している。

昨年7月22日にGoToトラベルが強引に始動された。
コロナ感染の収束が実現していない段階だ。
東京都の感染が高い水準で推移した。

しかし、政府はGoToトラベル実施を強行した。
観光業界への利益供与を優先したのだ。

経済活動の拡大とコロナ感染の抑止。
2つの課題が存在するが、重要なことは正しい優先順位を設定すること。
正しい優先順位とは、コロナ感染収束を優先すること。
これが経済活動を維持するためにも重要なのだ。

感染を収束させるために必要不可欠なことが2つある。
検査と隔離である。
これが世界の常識。
WHOが繰り返し強調してきたこと。

ところが日本政府は一貫して検査抑制の行動を続けてきた。
感染症の利権ムラの意向に沿ったものである。

検査を拡充して感染者を隔離する。
全員入院させる必要はないが、宿泊療養施設に収容して隔離することが重要だ。

ところが、日本政府は何も対応してこなかった。
GoToに1.7兆円もの血税を投下した。
ひと握りの有力宿泊業者は濡れ手に粟の莫大な利益を供与されたが、その裏側でコロナ感染が日本全体で急拡大した。

日本におけるコロナ感染再拡大は完全な人災である。
GoToには第三次補正予算でさらに1兆円もの血税が投下される案が示されている。

その一方で、感染者を収容する施設さえ、まったく確保されていない。
コロナ感染が確認されて、入院または宿泊療養施設への収容を求めているのに、何らの手当てもされずに放置され、そのまま死に至る事例が多発しているのだ。
五輪の選手村を宿泊療養施設として活用することを決断すべきだ。

変異種の感染力は高く、毒性も高い可能性がある。
ワクチンが変異種に有効でない可能性もある。
ウイルスの変異は今後も続く。

コロナ死者数は全世界で確実に増加している。
昨年中の1日当たりコロナ死者数は5,000人水準で推移した。
これがいま、1日当たり1万5,000人水準に急拡大している。
海外から人を流入させることができない状況が続く。

この状況下で五輪を開催できるわけがない。
現況を冷静に見つめようとせず、精神論だけで泥沼に突進する。
先の大戦で日本政府が演じた失態を、なぜまた繰り返そうとするのか。

五輪中止の判断を速やかに行うべきだ。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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