【市議座談会】2021年の福岡市政の課題とは〜コロナ禍で見えにくい失業者、生活困窮者への支援を(後)
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福岡市民クラブ代表の田中しんすけ氏(4期、中央区)、福岡令和会幹事長の浜崎太郎氏(博多区、3期)、自民党市議団政調会長の調崇史氏に、福岡市の昨年からのコロナ対策、今年の市政の課題について語ってもらった。座談会では市の対応の早さなどに一定の評価をしつつも、失業者、生活困窮者がますます増えていくことが懸念されるなか、より一層踏み込んだ施策を行い、市民の生活を支援していくことなどが提起された。
ーー住みやすさに関して、今後維持していくための課題は何でしょうか。
調 福岡市の生活コストの低さは魅力的と感じています。しかし、より住みやすくするために、交通という課題を解決しないといけません。とくに住宅エリアにおいて高齢者の占める割合がどんどん高まっており、高台を抱えているエリアでは、車がないと住めないからと住宅を売却して移住する方もいます。平坦なエリアに行くわけですが、みなが住宅を売り出せば買い手がなく、残ってしまいます。
「どこででも暮らせるように」という視点から、現在のうちに対策を講じておくべきだと思います。コロナ禍のため、いろいろな施策、とくにハードウェア面の施策が後回しになっておりますが、住みやすいまちであり続けるために、取り組みを遅らせると、悪影響をおよぼす生活交通のような政策はきちんと取り組むべきだと思っています。
田中 これに関しては全区が高台のエリアを抱えており、同じ問題が発生するのは時間の問題だと思います。この生活交通は、議会全体で問題意識をもって勉強会を開催するなどして取り組んでいる重要な問題です。調先生がおっしゃっている「いつまでも住み慣れたまちで」というのはある意味で新しい打ち出しだと思います。若いときは体力があり坂や丘の上の住宅でも気にしなかったものの、20〜30年経った現在では往来をきつく感じている住民が多くいます。「そのような心配はありません」というのも、市としての打ち出しの1つであると思います。新しい打ち出しには、目新しいことばかりではなく、地に足が付いた立脚点からの打ち出しも含まれるべきだと思います。
浜崎 福岡市の住みやすさの理由は社会資源の充実にあると思います。たとえばまちに多くの病院があり、気軽に受診できます。また、仕事、雇用が多い点も魅力的であり、九州、とくに九州北部から人が多く集まってくる要因にもなっています。
ただ、福祉業界に身を置く者として、とくに高齢者介護施設の人材不足の問題を痛感しています。若い人たちに福祉業界を担ってもらいたいと願っていますが、福岡に移住してくる人たちのあいだでもあまり人気がありません。この状況が続いていくと市の高齢者に対する保健福祉施策が持続できなくなるでしょう。また75歳以上の高齢者が今後ますます増えていくにつれて、老老介護、3世代での介護も増え、社会保障制度の運用がままならない状態になっていく恐れがあります。
これは大きな課題であり、解決策の1つとして施設での技能実習生の受け入れを始めています。福岡市は姉妹都市のミャンマー・ヤンゴン市と締結を結び、実習生受け入れのミッションを始めています。大阪市、横浜市などは前から海外の都市と締結を結び、実習生をどんどん受け入れて介護を支えていくという方針を出しており、福岡市はそれらの都市に少し遅れはしたものの、追いついてきている状況である思っています。なお、コロナ禍の現在は、実習生は来日後の2週間の隔離期間はオンライン研修を受け、その後2週間の実地研修に参加し、来日して1カ月後に現場に入るようになっています。
関連して、ハローワークの機能について疑問を感じています。ハローワークの求人募集では従業員がなかなか集まらないため、派遣会社も使います。福祉業界のみの現象かもしれませんが、10人雇うと、うち9人は派遣会社による紹介であり、ハローワークからの応募は1人だけです。しかし、社会福祉事業はそもそも国の制度のなかでサービスの単価、加算方式が決まっており、人材派遣会社に支払う費用などは制度内に積算されていません。そのため従業員の給与を上げにくく、経営はジリ貧になっていきます。
ハローワークは目標数値、たとえば斡旋、成功率の目標などを設定して業務を行っているのでしょうか。寄せられた求人を掲示板に貼って、求職者に斡旋することぐらいしかやっていないのではという印象を受けます。と思います。同一労働同一賃金という逆のパターンで攻めていきたいこっちはって言いたくなるみたいです。
田中 ハローワークはそもそも自治体の状況をまったく把握できていません。正確にはできない仕組みになっており、それが問題です。たとえば市の関連データを提供してほしいと要求しても、たとえば福岡都市圏北部と南部それぞれのデータならあるが、市単体のデータはとれないと対応されます。このように、新規就業や失業などの現状について把握できていません。
浜崎 調先生がさきほど提起した自殺の問題について、彼らに仕事が提供されていれば違う結果になるはずです。フリーターの人に関していえば、勤務している会社との間で社員としての雇用契約を結んでおらず、急に仕事がなくなり、給与がなくなったという人の比率が高いのではと思います。
調 自殺の理由の上位3位は、健康、経済、家庭の問題であり、この点はずっと変わっていません。このうち、経済的理由による自殺に関しては雇用情勢と連動しており、失業率と自殺の多寡の相関性がよく指摘されています。コロナ禍で失業が増え、また困窮、さらに家庭の問題などが起きており、自殺者が膨れ上がる恐れがあります。行政は失業対策を打ち出し、市民の命を守るという役割をはたすべきです。
田中 問題は、福岡市が雇用政策、労働政策は市の管轄事項でなく県の管轄というマインドを強くもっていることです。雇用政策は県の管轄であり、県に言ってくれという意識があり、以前よりも強くなっていますが、これではいけないと思います。しかし、現在はコロナ禍で平常時ではなく、思い直さないといけません。市にできることは何か、期待されていることは何かを考え、実行することが大事だと思います。実は以前は市に雇用・労働を担当する課が設置されていたのですが、撤廃され、担当者が係長レベルになっています。しかし、現在はなりふり構わずにやるべき状況でしょう。
生活困窮者についていえば、わたしたちが従来想定していた困窮者とは違う層が、現在困窮者になっているように感じています。彼ら自身。もともと困窮について考えたこともなかった人たちであり、そのため、社会福祉協議会の貸付金などの制度、チャネルについて情報がなく、それらのことを知らなかったために困窮状態に陥ったということにも気づかない、という人が増えている状況になっているのではないかと推測しています。市としてそこに目配せできるようにしないといけません。
現在、自立して暮らせる人たちと、厳しい人たちとの間の幅が広がってきたと思っています。コロナ禍で、若い人が事務所に電話をかけてくるんですね。昨年の4〜5月ころ、若い人が事務所に電話をかけてきて、広報のチラシを見たがどうしたらよいかと尋ねてくるわけです。若い人、とくに大学生で生活や将来を懸念する人たちが結構な数でいるのではないかと思います。今はネットで何でも調べることができる時代ですから、若い人から連絡を受け驚きました。これまでになかったことです。
調 誰かにすがりたいという気持ちがあったのでしょうか。
浜崎 人が人生のどこかで失敗しても浮きあがれる環境が整っていることが大事だと思います。いい大学に入り、会社に就職して、定年まで勤務して退職というコースがあるとして、途中で大学受験、就職、結婚などで失敗することもあるでしょう。いったんドロップアウトしても、一生懸命努力して、浮き上がっていく人もいます。週40時間で平均年収を超える年収を得ている人もいれば、年収300万くらいで、子どもを大学に行かせるために頑張っているけど思い通りにいかない人もいます。普通の安定した人たちの層ばかりをみて政策を決めていくと、うまく進みません。市はいろいろな人のパターンを想定して物事を考えていくべきだと思います。
(了)
【茅野 雅弘】
<プロフィール>
田中 慎介(たなか しんすけ)
1978年生まれ。福岡県立筑紫丘高校卒業、九州大学法学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間会社勤務を経て、2007年に福岡市議会議員初当選(中央区、現在4期目)。19年福岡市民クラブ代表に就任。
URL:https://www.tanakashinsuke.jp/
浜崎 太郎(はまさき たろう)
1967年生まれ。福岡県立武蔵台高校卒業、米国サウスイースト・ミズーリ州立大学経済学部卒業。民間会社勤務、社会福祉施設の施設長を経て、11年に福岡市議会議員初当選(博多区、現在3期目)。19年福岡令和会幹事長に就任。
URL:https://hamasakitaro.com/
調 崇史(しらべ・たかし)
1978年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業、九州大学法学部卒業。民間会社勤務、元福岡市長秘書を経て、11年に福岡市議会議員初当選(城南区、現在3期目)。19年自民党市議団政調会長に就任。
URL:http://www.t-shirabe.net関連記事
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