2024年11月24日( 日 )

問題核心は組織委森武藤独裁性にある

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、東京五輪・パラリンピック組織委員会の意思決定体制を批判し、後任会長にはオリンピズムの根本原則を十分に理解する山口香JOC理事がふさわしいと指摘する2月13日付の記事を紹介する。

極右的言動を示してきた川淵三郎氏の組織委会長起用案が白紙になった。
正当性のない会長人事案が白紙還元されたことは当然だが、その原因になったのが川淵氏の口の軽さだった。
川淵氏の口の軽さは評価に値する。
川淵氏が口の堅い人物であれば密室人事がそのまま実現した可能性が高いからだ。

川淵氏は2月11日に極めて重要な情報を提供した。
以下に列挙する。
「森さんは『いろいろな反響をみて、辞めたい。川淵さんにお願いしたい』と言われた」。
「とにかく『後を任せるには川淵さんしかいない。小池(百合子)さんと話して、菅義偉首相や安倍晋三前首相とか、武藤敏郎事務総長は、川淵さんならぜひいい』と。
そのなかで菅さんあたりは『もう少し若い人はいないか』と」。
「本来は。女性はいないかという話があった」
「森さんは、いきなり『こういうことになったので、何とか後を引き受けてほしい』と単刀直入だった」。
「それは、『森さんのご意向があるならば、僕としてはベストを尽くします』と」。

森喜朗氏は女性蔑視発言の責任を問われて引責辞任に追い込まれた。
その引責辞任する人物が辞意表明の前に後任会長を指名して後継体制を固める段取りを進めていたことが暴露された。
伝聞だが、森氏は後任人事について、小池都知事、安倍前首相、菅首相、武藤組織委事務総長とすり合わせて、川淵氏を就任させることで同意を得ていたことを川淵氏に伝えていた。
川淵氏が記者に対して黙秘を貫いていたら、このまま決着した可能性がある。

森氏は2月3日のJOC評議委員会で
「女性がたくさん入っている理事会、理事会は時間がかかります。」
「女性は競争意識が強い。
誰か1人が手を挙げると、自分もやらなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。」
「数で増やす場合は、時間も規制しないとなかなか終わらないと困る。」

と発言し、女性差別、女性蔑視の姿勢が批判を浴びた。
しかし、問題はそれだけにとどまらない。
五輪組織委の意思決定についても重大な問題が指摘されている。

「スポーツ報知」は次のように報じている。
「「組織委員会」は名ばかりだった「何をお前は言っているんだ」意見一蹴…森会長辞任の舞台裏」
https://bit.ly/379NNlS

「昨年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、東京五輪は開催危機に直面した。日本中が開催の可否に揺れるなか、3月24日に1年延期が決まった。その時、ある理事は『臨時理事会を開き、話し合うと思っていたが、そういう連絡はなかった。何のための理事会かと思った』と疑問をもったという。
意思決定機関である理事会では、会議の残り5分くらいで出席者に『何かありませんか?』と声がかけられることが多かったというが、そんな短い時間では議論には至らなかった。
こんな例もある。17年11月、新国立競技場の五輪後の利用として、球技専用への改修案が当時、ほぼ固まりかけていた時だった。理事が『五輪が終わった後も陸上で使うことはできないのか』と発言したが、森会長から一蹴されたという。
現時点ではトラック存続も検討されているが、ある理事は『何をお前は言ってるんだ、と言わんばかりの威圧的な雰囲気でした。その後、理事会で異論を言う人はいなくなったように思う』と振り返った。
『組織委は森会長、武藤事務総長ら一部のほうが、ほとんどのことを決めて、理事はその決定事項を会議で聞かされているという流れ。せっかく、さまざまな分野から集まってきているのだから、もっと意見の交換をすることが必要だと思う』とある理事は指摘した」。

組織委は森喜朗氏が会長、武藤敏郎氏が事務総長。
この二名が合意して決定すれば、それが組織委の決定になる。
これが実態だったのではないか。

森氏の「会議が長くなる」発言は、独裁制に従わない者を毛嫌いするとから発せられたものであると感じられる。
武藤氏は2月12日の会見で
「この7年間、組織委のマネジメント、ガバナンス、コンプライアンスは一番重要な点として、最大限努力してきた」
とカタカナ言葉を羅列してガバナンスの正統性を主張したが、実態はまったく違うようだ。

後任会長の選任について武藤敏郎氏は2月12日の会見で
「国民にとって透明性のあるプロセスでなければならない」
と述べた。

ところが、組織委員会はこれと並行して驚くべきことを決定していた。
後任を絞り込む選考委員会のメンバーを非公表とすることを決定していたのだ。
透明性を高めるために選任プロセスをブラックボックスにすると宣言したわけだ。

もはや組織委員会は解散するしかないように感じられる。
菅首相は2月8日の衆議院予算委員会で五輪組織委会長・森氏の去就問題について、
「政府と独立した組織委員会で決めるべきこと」
「私自身が独立した組織に人事への口出しをすることはすべきでない」
と答弁した。

しかし、川淵三郎氏は2月11日の記者の取材に対して、森氏の発言を引用するかたちで、
「菅さんあたりは「もう少し若い人はいないか。本来は。女性はいないか」という話があった。」
と述べている。
このことが事実であれば、菅首相が「独立した組織に人事への口出し」したことになる。

朝日新聞はこのことについて菅首相に質問し、以下のように報じた。
「東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の混迷が深まった12日夜、菅義偉首相は官邸で記者団の取材に応じた。森喜朗会長に後任を要請された元日本サッカー協会長・川淵三郎氏は前日、『もっと若い人、女性はいないか』と述べたとする首相の発言を記者団に紹介した。だが、事実関係をただされた首相は口を濁した」。

「首相は同日夜、官邸で記者団に『若い人』『女性』と川淵氏に伝えたかを問われ、『国民から歓迎されるなか、ルール、透明性に基づいて決定をすべきだと考えている』と応じた。正面からの説明を避ける首相に記者団が『具体的にお答えいただきたい』と求めると、首相は『あの、川淵さんと話していません』と返した。
首相はさらに、森氏に『若い人』『女性』などと伝えたかを問われ、『国民から信頼され、歓迎される組織、(会長の)決め方が大事である、こういうことはしっかり申し上げている』と説明。『森氏に伝えたか』と念押しされると、『いいえ、今、申し上げたことは伝えています』と述べた。かみ合わないやりとりに記者団が『伝えています?』と重ねて問うと、首相は『はい』と答えた」。

森氏に「若い人」「女性」などと伝えたかを問われて、菅首相は
「国民から信頼され、歓迎される組織、(会長の)決め方が大事である」
と伝えたことだけを述べて、「若い人」「女性」と伝えたかどうかについて回答しなかった。
伝えていなければ「伝えていない」と述べるはずで、回答しないことは伝えたことを暗に認めていると受け止められる。

また、「川淵さんと話していません」の発言は「川淵さんに話していないが森本首相には話した」ことを示唆している。
菅首相は組織委の人事に介入していると判断できる。

しかし、森氏に辞任を促すことはできなかった。
問題を長引かせ、問題を拡大させ、事態混乱に拍車をかけているのが菅首相。
ここでも「後手後手、小出し、右往左往」の菅三原則が貫徹されている。

組織の武藤敏郎事務総長は後任会長に川淵三郎氏を起用する案に同意し、そのまま組織委で決定しようと目論んだが、川淵氏が密室協議の内容を外部に漏らしたために白紙に戻さねばならないと判断したのだと思われる。

しかし、組織委が森、武藤ツートップによる独裁制で運営されてきた実態が鮮明に浮かび上がる。
挙句の果てに、後任候補を選定する選定委員会のメンバーを非公表にすることが決定された。
このプロセスのどこが「透明」なのか。

11月25日の「勝負の3週間」が感染拡大推進に向けての「勝負の3週間」だったのと似ている。
ウケを狙っているとしか思えない。
このことを世界のメディアが一斉に伝えるだろう。
「日本の五輪組織委 透明なプロセスを確保するために選任委員会をブラックボックスに?」
と伝え、東京五輪の幕引きを報じるのではないか。

後任会長の条件について武藤氏は
「五輪、パラリンピックについて何らかのご経験が必要。
ジェンダーイクオリティー、ダイバーシティー、インクルージョンの認識が高い方が必要」
と述べた。

発言した本人が、その意味をよく理解しているのか疑問だ。
いずれにせよ、念頭にある人物への誘導を図る思惑が強く感じられる。
後任会長に求められる資質はただ1つ。
オリンピズムの根本原則を十分に理解している人だ。

オリンピズムの目的は「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目
指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」
この基本を正しく理解して発言しているのが山口香JOC理事である。
山口香氏の組織委会長就任を強く求める。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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