2024年11月14日( 木 )

【新・「電通公害」論】崩れ落ちる電通グループ~利権と縁故にまみれた「帝王」の凋落(4)

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ライター 黒川 晶

 圧倒的な力を背景に、長期にわたりマスコミを支配し続けてきた広告代理店・電通グループ。だが、「驕れるもの久しからず」。広告料不正請求事件や過労死事件に象徴されるように、綻びが目立ち始め、ついに巨額の赤字決算を計上。利権と縁故にまみれた広告業界のガリバー企業は、音を立てて崩れ落ちようとしている。

公との癒着と「広告代理店・電通」の自死

 クライアントに詐欺を働き、社の繁栄に貢献すべき若い有能な人材をも潰すような企業に未来はない。電通は大型スポーツイベントを次々と独占受注し、人々のマスコミ離れを食い止めようとしてきたが、このような企業がどれだけ爽やかな広告をつくろうと、視聴者は白ける一方であるだろうし、それがスポンサー企業やスポーツ業界全体に負のイメージを植え付けるだろう。

 不正事件の発生は、このように、社とそれに関わるすべての業界のイメージを損なうがゆえに、まともな企業であればその防止に努めるところだろう。だが、電通には、いざとなれば「伝家の宝刀」、つまり広告出稿量削減をチラつかせればメディアを黙らせられるという奢りがあったようだ。事実、ネット広告料不正請求事件では、日本の大手メディアが報じたのはトヨタの通報から2カ月後。しかも、記者会見に臨んだ電通の副社長が、集まった記者たちに対し、堂々と「できればそのことは書いてほしくない」と述べるほどの厚かましさである。

 だが今や、その「自信」の源泉はマスコミ支配だけではなかったことがよくわかる。繰り返すが、このたびのコロナ禍に対処する政府の「持続化給付金」事業で、電通がトンネル法人を使って公金を「中抜き」し、仲間内で「山分け」していたことが発覚した。そして、事件の解明が進むなか、この「中抜き」スキームの原型は11年に遡ることが明らかになっている。

ビジネス街の一等地汐留もほとんど人影が見当たらない状況

 中央省庁が官僚の天下り先となる外郭団体の利益を確保するために、そこを優先して事業を発注していることを問題視した民主党政権が、09年11月、「事業仕分け」を通じて政府の補助金給付業務の民間移譲を原則化したことは周知の通りである。成長部門であるインターネット広告業界への出遅れに加え、ほかのあまたの企業と同様にリーマン・ショックの後遺症に悩むこの時期、電通はそうした「官から民へ」の動きにビジネスチャンスを見出したらしい。

コロナ禍前は多くのビジネスマンが行き来していたSIOSITE周辺

 報道によれば、経産省の省エネ関連補助金事業を受注していた同省の外郭団体「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」の代わりとして、電通は自ら売り込みをかけた。その際、接触した経産省幹部らに入れ知恵されたか、電通が直接事業を受注するのではなく、08年12月にスタートしたばかりの非営利の法人形態「一般社団法人」――最低社員2人の登録で設立でき、監査も最低限の決算広告だけでよい――を設立し、そこからの「再委託」――人件費や外注費に加え、費用総額の10%の一般管理費を上乗せして請求できる。しかも監査は再委託先には入らない――というかたちで、補助金事業をせしめるという「ビジネスモデル」に思い至ったようだ。

 実際、11年2月に元電通社員・平川健司氏や田中哲史氏によって「(一社)環境共創イニシアチブ(SII)」が設立され、わずかひと月後に経産省から「エネルギー使用合理化事業者支援補助金事業」を受託。以後、省エネ関連事業を次々と受託しては電通に「再委託」することを繰り返していた。

 これに味をしめたか、電通はその後、同様の「一般社団法人」=ダミー会社をいくつもつくり、それらを通じて国から多額の税金が流れ込むようにしたのである(東京新聞によれば、電通が再委託を受けた経産省の事業数は15年から6年間で72件、再委託費は合計1,415億円にも上る)。その1つが、経産省が「おもてなし規格認証事業」の事業者公募を開始したまさにその当日の16年5月16日に設立され、このたび「持続化給付金」事業で問題になった「(一社)サービスデザイン推進協議会」だったというわけだ。

 また、電通はこの時期、各省庁から多くの天下りを受け入れていたことが知られている。しんぶん赤旗の20年6月17日付記事によれば、09年からの10年間で、11人の役職付き公務員と1人の特別国家公務員が電通に「顧問」などの肩書きで雇い入れられていた(そのうちの1人は、現在電通グループ副社長に就任している元総務省事務次官で、人気アイドルグループ「嵐」の櫻井翔の父親、櫻井俊氏である)。

 こうして各省庁とのコネをつくる傍ら、電通幹部が個々の現役官僚と親密な関係を築いていたことも明らかになっている。SIIに加え「サービスデザイン推進協議会」の理事にも就任した元電通社員・平川氏と、「持続化給付金」を担当する中小企業庁の前田泰宏長官との関係のように。

 そして、こうした「人脈」は、公的事業がダミー会社を経由して優先的に電通に流れるように「便宜」を図るものだ。この観点からすると、実績のないSIIが入札もなく省エネ関連事業を次々受託していった11年から13年に資源エネルギー庁の省エネ・新エネ部長を務めていた新原浩朗氏(現・経産省経済産業政策局長)が、19年に元アイドルの菊池桃子さんと結婚したことも、別の意味合いを帯びて立ち現れてはこないだろうか…。

 いずれにしても、ここでは吉田社長以来の企業戦略がそのまま移植されている。すなわち、ネポティズム(縁故主義)による独占体制の構築であり、これを安易に公的領域に持ち込んだ時点で、電通は日本社会の公正性を破壊し、「広告代理店・電通」を自ら葬った。経産省の下請として補助金付きの仕事が労せず入って来る今、電通幹部の目には、良い仕事をしてクライアントを獲得する努力すら、もはや「バカらしい」ものに映じていようから。

(了)

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