西鉄、「聖域なき構造改革」の中身
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西日本鉄道(以下、西鉄)は、中期経営計画を見直して、2022年3月までに赤字事業の売却・撤退などの「聖域なき構造改革」を行うことを決めた。赤字額は21年3月期に150億円に膨らむ見通しで、早急な対策を迫られていた。
コロナ禍で、5事業のセグメント別収益は明暗が分かれた。21年3月期第3四半期決算で不動産、流通、物流部門は黒字を確保したが、運輸とレジャー・サービス部門は大幅減収が響き、赤字となった。営業赤字額はそれぞれ92億円、82億円に上る。
運輸部門の各事業の減収率は鉄道が前年同期比32%、バス同36%、タクシー同42%と軒並み30%を超える。駅構内の店舗管理やコンビニ運営などコロナの影響が小さい運輸関連事業でも11%の減収だった。運輸部門では、従来の需要が戻らないことを前提にして、この3月に電車とバスの減便を実施した。また、福岡と北九州都心部で運行する100円バスと65歳以上を対象にした乗り放題の定期券の値上げを決めた。1日8万人が利用した100円バスは日本一のバス保有台数を誇る西鉄の象徴ともいえる存在であったが、交通ネットワークを維持するために値上げは不可避と判断した。
レジャー・サービス部門は全体で同54%の減収。事業別では娯楽事業同35%、飲食事業同39%、広告事業同41%、ホテル事業と旅行事業に至ってはそれぞれ同69%、同74%の減収だった。回復の見込みが立たない赤字事業の「かしいかえん シルバニアガーデン」を年末に閉鎖し、「西鉄イン心斎橋」は売却。西鉄旅行(株)の個人向け店舗の大半と不採算飲食店の閉鎖を決めた。
西鉄は、収益を1年で立て直して、22年3月期には60~70億円の営業黒字を回復する算段だ。手立てとして中心に据えるのが住宅事業、ストア事業、国際物流事業、海外事業だ。
21年3月期第3四半期決算のこれら4事業の実績を見ると、住宅事業を所管する不動産部門の営業収益は407億円と前年同期とほぼ同額を確保した。天神コアの閉館などで賃貸事業が同15%の減収を余儀なくされたものの、東京で販売したマンションなどで住宅事業は同23%の増収を遂げ、賃貸事業によるマイナスを埋めた。不動産部門は同約12%の営業減益となったが、39億円の営業利益を確保してコロナ前と変わらぬ収益力を示した。
国際物流事業を所管する物流部門は同4.7%の増収となった。国内物流事業は同7.9%の減収となったが、部門の91%を占める国際物流事業が同5.5%の増収をはたし、部門収益を押し上げた。国際物流事業の取扱高自体は航空輸出入、海運輸出入ともにコロナの影響で減少したが、航空運賃原価の上昇に合わせて販売価格を引き上げたことが奏功した。
流通部門では、「雑貨館インキューブ」を運営する生活雑貨事業は店舗の一時休業などもあり同約20%の減収を余儀なくされたが、巣ごもり消費の拡大により西鉄ストアを展開するストア事業は客単価が上昇し、減収率を同4.7%に留めた。また、非常事態宣言下でチラシ配布の自粛などで販促費が減少。ストア事業の営業利益は前年同期比の2倍以上となる112%の増益の14億円を確保した。
住宅事業部内の1部署だった海外事業は現状では大きな実績を残していないが、これまでにベトナムやインドネシア、タイで現地企業と提携し、マンションや戸建住宅の開発を行っている。
これら4事業で当面、収益を上げやすいのはコロナ禍でも増収となった不動産事業だろう。地元でのビジネスを重視する西鉄であるが、不動産事業では06年の東京でのマンション販売を皮切りにして、首都圏での実績を重ねてきた。21年3月期第3四半期の住宅事業の伸びを支えた分譲マンションでも、昨年10月に竣工した「サンリヤン北綾瀬」(東京都足立区、84戸)の販売が寄与した。今後も首都圏など域外でのマンション販売を収益拡大の軸に据える。
不動産事業以上に域外での実績が豊富にあるのが国際物流事業だ。1971年にはアメリカで現地法人を立ち上げ、2020年3月現在で拠点数は28カ国・地域、115都市に広がっている。コロナ禍による取扱高減少を意に介さず、22年3月までに 31カ国・地域、124 都市に拠点を拡げる構えだ。海外不動産事業は、進出済の東南アジアでの住宅に加え、東南アジア・アメリカでの物流倉庫やオフィス、商業施設などの開発を進めていく。実績豊富な国際物流とのシナジーを図っていくと見られる。流通事業では西鉄大牟田線の高架駅などへの出店や他社との提携、セルフレジの導入などデジタル化推進を盛り込んだ。
こうしてみると今後2年間注力していく事業は、海外不動産を除くといずれも直近決算で黒字を叩き出した部門だ。たしかに、巨大市場をターゲットに据えた不動産部門や従前の実績豊富な国際物流への期待は高い。一方で、流通事業は商圏を地元に縛られる。自前の不動産を活用できるのは強みであるが、出店余地は限られる。多様な業態が入り乱れ、市場が飽和状態のなかで、競合に打ち勝つ集客力の確保が求められる。
アフターコロナに向けて不動産、国際物流につぐ収益部門の育成が求められる。
【鹿島 譲二】
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