新型コロナウィルス対策の裏で進む人工知能による監視システム(中)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
その意味で、アメリカの先を行くのがイスラエルである。イスラエルは「グリーン・パスポート」と銘打った追跡アプリをワクチン接種者に発行している。海外からの訪問者には「フリーダム・ブレスレット」と称する追跡デバイスの装着を要請。万が一、このデバイスを受け入れない場合には、到着後2週間の間、政府が指定する隔離所にて経過観察の扱いを受けねばならない。「メディカル・アパルトヘイトではないか」との批判も聞かれるが、「感染予防には欠かせない」との説明には従わざるを得ないだろう。
実は、こうした監視制度の導入は英国やEUでも始まっており、「デジタル・グリーンパス」とも呼ばれている。これがインドに行けば、「QRコード証明書」となり、中国ではウィチャットを利用する「国際旅行健康証明書」が発行される。アメリカのニューヨーク州では「IBM」が開発した「エクセルシオール・パス」に変身することになる。いずれも感染を阻止するとの大義名分が付与されている。
また、ロサンゼルスの学校では「マイクロソフト」が開発した「デイリー・パス」アプリの導入が始まった。これは登校する子どもたちの行動をすべて把握しようとするものである。いうまでもなく、こうした行動監視の動きは「ダボス会議」が提唱する「グレート・リセット(生き方の見直し)」の流れに沿ったもので、「マイクロソフト」の創業者であるビル・ゲイツ氏が発案者であることはよく知られている。
こうした人の行動を監視するデバイスの開発が進むとともに、人とマシーンの通信を可能にする研究にも拍車がかかってきた。人と機械のテレパシーである。たとえば、アメリカの国防総省はライス大学の神経工学チームに対して800万ドルの研究費を提供。国防総省の先端技術開発庁(DARPA)はワイヤレスの研究を進める「頭脳リンク」に対して資金提供を決定。いずれも2018年のことであり、22年には人体実験の開始が予定されている。
このようにアメリカでは国防総省が潤沢な予算を投入し、さまざまな民間部門への応用可能な研究を後押ししている。精神と肉体の治療も重要な分野と位置付けられている。そのため、DARPAは11年、ネズミの脳に記憶を移植する実験への資金提供を行った。その成果を基に、人間にも応用が図られ、何と「痴呆患者の記憶能力を35%も向上させた」というから驚かされる。当面の目的は戦場で負傷した兵士の肉体ならびに精神面での治療に役立てることである。
現在、DARPAでは100万ドルの研究資金を用意し、昆虫の脳に記憶データを移植する研究を支援中とのこと。昆虫の脳内の神経中枢のマッピングを行うというわけだ。当然のことながら、その成果を活かし、人への応用を含め、AIの機能向上を目指すという段取りに違いない。
こうした軍主導の研究は民間部門を大いに刺激しているようだ。「フェースブック」の創業社長マーク・ザッカーバーグ氏は世界初のテレパシー・ネットワーク構築を計画し、脳とコンピューターを結びつける研究を継続中である。毎秒100ワードを考えただけでタイプできる「縁なし帽」を開発した。世界では30万人以上が内耳インプラントによって音を電気信号に変換することで聞こえる力を獲得しており、医療面での応用が喫緊の課題となっているからだ。
電気自動車最大手の「テスラ」で「テクノ・キング」という大げさな役職を正式に名乗ることになったイーロン・マスク氏も別会社「ニューラリンク」を立ち上げ、脳とAIの合体を目指している。「ブレーン・マシーン・インターフェイス」も自社技術を駆使し、人をオーガニック・コンピュータへ転換する実験を繰り返している模様で、この新規ビジネスの分野では激しい市場争いが演じられるようになった。
学術面での研究も進んでいる。メリーランド大学のウイリアム・ベントレー教授の下では生物学的細胞をコンピューターの意思決定過程に一体化させる研究が行われており、人体の細胞の周囲にエレクトロンを配置することで、細胞が電流を起こし、通信用の電波を発信させることも可能になるという。これが実用化すれば、人体が発電機にも早変わりすることになる。体内に埋め込まれたデバイスの電力源を自らの体内で調達できるようにするということだ。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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