2024年12月22日( 日 )

福岡県議会議員・田中大士氏 父の遺志を継ぎ県議会に挑戦

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 昨年12月30日、福岡県議会議員・田中久也氏(自民党)が急性心不全で死去した。当選回数は史上最多、県議会議長も務めた自民党重鎮が急死は、選挙区内の均衡が精緻なパワーバランスの上に成り立っていたことを浮き彫りにした。久也氏という重しがはずれたことで、福岡市西区の選挙情勢が流動化したかたちだ。

無風選挙から一転、怪文書騒動

田中大士県議。県議を13期務めた父親の、故・久也氏のポスターの前で
田中大士県議。
県議を13期務めた父親の、
故・久也氏のポスターの前で

 昨年暮れも押し迫った12月30日、福岡県議会議員の田中久也氏(自民党)が急性心不全で死去したという報が関係者の間を駆けめぐった。享年87。久也氏は福岡市西区(定数3)選出。1971年に初当選して13期目の途中だった。当選回数は県議会史上最多で、85~86年には県議会議長も務めた自民党福岡県連重鎮の1人だった。

 久也氏の死去は福岡県議会87議席の1つが空いたことも意味する。訃報から約2カ月半後には小川洋・福岡県知事が病気治療を理由に辞意を表明したため、県知事選(4月11日投開票)に合わせた県議補選が4月2日に告示された。対象となる地域は、福岡市西区、久留米市、八女市・八女郡の3選挙区(いずれも被選挙数1)で、それぞれ新人1人が立候補を届け出た。

 福岡市西区で久也氏の後継として立候補を届け出たのが、無所属新人の田中大士氏(54)=自民推薦=だった。久也氏の長男で同氏の秘書を務めていたほか、地元の姪浜で長年まちづくり活動に従事してきた実績がある。結果的にほかに立候補者が現れなかったため、大士氏を含む3人の新人が無投票で初当選を決めたが、福岡市西区だけはいささか事情が違った。大士氏が後継候補に立つという噂が流れたころから、告示前にもかかわらず、選挙区内の公民館やマスコミ各社などに「怪文書」が送り付けられるという不穏な事態になっていたのだ。県政関係者の間でもちょっとした話題となり、「誰が、どんな動機で怪文書を流したのか」という謎解きを中心に、無投票にもかかわらず注目を集めていた。

 さらに、怪文書と関係があるのかは不明だが、自民党重鎮の息子で秘書を務めた実績があるにもかかわらず、大士氏に対して自民党福岡市西区支部の公認は下りず、なぜか「推薦」にとどまった。そのため大士氏は当選後、「公認候補」が条件となる自民党県議団には所属できず、自民党と友好関係にある保守系会派「緑友会」に所属している。

 福岡市西区は前回、久也氏と国民民主党の仁戸田元氣氏(41)、そして自民党の野原隆士氏(64)の3人が無投票で議席を分けあったが、次回選挙では公明党が候補者を立てるという噂がくすぶっている。しかも久也氏引退後は公明党が地盤を引き継ぐという構想もあるとされ、今回の怪文書はそうした選挙区事情がもたらしたつばぜり合いの火花ともいえた(15年選挙での順位は久也氏、仁戸田氏、野原氏の順)。

 怪文書については福岡県警に被害届を提出済みで、出所については県議会関係者の誰もが「あの人しか考えられない」と名指しする人物がいるものの、いまだ特定には至っていない。

地域住民一人ひとりの幸せを実現する 

 無投票にもかかわらず、いきなり逆風が吹くなかでの船出となった大士氏だが、秘書として父親を支えてきた経験があるため動揺することなく、淡々と歩みを進めている。 

 「初めて出席した議員総会では、違う会派の方からも声をかけていただきました。これは久也が残した実績ゆえだと思います。そこにあぐらをかかずに、久也がやり残したことをきちんと実現したいですね」(大士氏)。

 主な政策として掲げるものは5つ。(1)子育て分野については、人口減社会を見据え、子どもたちの教育を充実させるとともに親世代の育児休暇後の職場復帰をサポートする施策が必要だと訴える。(2)福祉分野では、超高齢化社会を支える医療と介護が最重要課題。障がい者の特別支援教育の充実や社会参加の促進にも目配りを忘れない。(3)地域社会の再生は、これまで関わり続けてきた姪浜地区での活動が原点であり、最も自信をもつ分野だ。地域社会の伝統を守りながら、幅広い年齢層の住民が暮らしやすい災害に強いまちづくりを目指す。(4)雇用と産業ではとくに、漁業のまち・姪浜でも不足する農林水産業の担い手育成が課題だ。最後に掲げるのは、(5)福岡市地下鉄空港線と七隈線の接続構想。橋本駅と姪浜駅をつなぐことで住民の利便性が増すとともに、沿線地域全体の付加価値向上を目指す。

  いずれの政策でも常に頭にあるのは、「地域住民一人ひとりの幸せ」を政治信条としてきた父・久也氏の姿だ。「まず実現したいのが、地域活動の活性化です。姪浜でも都市化が進んだことで自治会活動が以前ほど盛んではなくなり、とくに昨年からは新型コロナウイルスの感染拡大が続いているため自治会や子ども会で集まることも難しくなりました。希薄になった地域コミュニティーを取り戻すための取り組みを進めます」(大士氏)。 

【福岡県政取材班】


<プロフィール>
田中 大士
(たなか・だいじ)
 1966年10月、福岡市生まれ。福岡歯科技術専門学校卒業、放送大学教養学部卒業。唐津街道姪浜まちづくり協議会会長。福岡着衣泳会会長。(一社)水難学会常務委員、西南学院中学校同窓会役員、元愛宕小学校PTA会長。元修猷館高校PTA実行理事。

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