日々進化を遂げる“IOBビジネス”とは何か
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年5月21日付の記事を紹介する。
日本ではまだ馴染みが薄いが、欧米や中国市場では、「IOBビジネス」が急速に市場を拡大している。IOBとはInternet of Bodiesの略である。要は、人間の身体をインターネット化することで、人間の健康管理やコミュニケーションの可能性を一挙に拡大しようとする試みに他ならない。
もともとはアメリカの国防総省下にある先端技術の開発を専門的に担当する「先端技術開発庁(DARPA)」がその先陣を切ってきた。DARPAといえば、インターネットの開発で知られるように、軍事的目的で研究開発した技術を広く民生部門に開放することで、アメリカの産業基盤を強化することに大きく貢献してきた。
国防総省によるIOB実験は長年にわたって行われている。たとえば、2019年6月、赤外線レーザーを使い、200m先の人間(洋服の上から)の心臓の電気信号を95%超の正確さで受信することに成功。病院のみならず戦場においても自国兵士の体調を正確に把握できるわけで、そうした技術の応用範囲は極めて広い。
筆者はこれまでDARPAが毎年開催する「官民合同技術交流展」に参加する機会があったが、その都度驚かされてきた。たとえば、古タイヤから新たな発電を可能にする装置。はたまた、サルやブタの体内に人間の細胞を移植し、人工的に臓器移植の材料を製造する機械、など。
毎回の展示会には世界中の投資家や起業家が集まり、目の色を変えて目新しい技術に未来のビジネスチャンスを見出そうとしていたものだ。さて、このところの目玉技術といえば、消費者向けIOBである。以下、いくつか最新の研究成果を紹介してみたい。
(1)注意喚起機能
脳や目の動きを監視するメガネ。ウェアラブルの最新バージョンといえるだろう。本来は戦場での兵士の動きをサポートする目的で開発されてきたものだが、学校での生徒の行動や運転中のドライバーに注意喚起を促すことが期待されている。商品化に当たってはマサチューセッツ工科大学(MIT)に研究委託が行われた。
(2)インプラント・センサー
これは細胞内バイオセンサーとも呼ばれる最新技術である。既存のウェアラブルより精度の高い分析が可能となり、ブドウ糖、塩分、アルコールの消費量を分析することで、人間の体調や健康管理に24時間対応が期待されている。
(3)センサー付き衣類
これも人の体温や血流を常時監視することを可能にするウェアラブルである。乳幼児用オムツとして活用すれば、言葉のできない赤ん坊の腸の具合を詳しく監視できる。
(4)インターネット接続の家具
家庭内の家具や家電製品を通じて、人やペットの健康管理に効力を発揮する。トイレは尿の流れをモニターし、糖分などを検査。体重計は体重のみならず水分量や筋肉量も把握し、個人の体調管理に万全を期すというわけだ。
(5)センサー付きベッド
これは睡眠中の身体の動きを分析し、睡眠の量や質に関するデータを収集する。
(6)インプラント・マイクロチップ
加齢による記憶力の衰えをカバーするもので、人の名前、住所、本人との関係性を記憶し、コミュニケーションをサポートしてくれる。ペット用のチップの発展形である。ドアの開閉や支払い機能も付与できるため、スマホ機能と同じといえるだろう。同様の技術を応用し、精神、感情を顔の表情や声のイントネーションで分析する研究も進んでいる。
(7)視覚、聴覚補助
17年、アメリカではビデオ・カメラとワイヤレス機能付きの眼科レンズが特許承認を受けた。聴覚支援装置も同様で、両者を組み合わせることで、行動監視に有益と目されている。
(8)健康追跡装置
ブレスレット、時計、指輪、スマホアプリは心臓機能、睡眠パターン、アルコール摂取量など、あらゆる行動データを収集、分析することに使われる。
(9)頭に装着する脳神経把握装着
電子シグナルで脳神経を刺激することで、脳の活性化を図る。慢性的な痛み、精神的落ち込み、注意散漫、PTSD症候群の緩和が期待されている。
これらの新技術や装置はすべて、医療費の削減にもつながる。と同時に、ハッキングによる悪用の危険性も指摘されている。19年5月、中国人ハッカーによるアメリカ最大のアンセム健康保険会社への侵入(15年)が検証の対象となった。その結果、8,000万人のアメリカ人の医療データが流出したことが確認された。
しかも、アメリカの連邦政府職員の半分の医療データが中国に流出した可能性も急浮上。言い換えれば、中国はアメリカ国内の保健衛生関連会社への投資、提携、買収によってアメリカ人の健康を左右する個人データを大量に入手している可能性が高いということである。
18年、フィットネス会社Strava は利用者の運動経路を公開した。それ以前、国防総省では兵士の肥満対策でこのアプリを2,000人(13年)、その後、2万人(15年)を対象に実験的な活用を開始していた。しかし、情報公開で秘密扱いの軍関連施設の所在や軍人の行動パターンが筒抜けになってしまった。
そのため、18年には使用禁止となった。実は、かつてチェイニー副大統領の使っていたペースメーカーが外部からの暗殺目的で標的になるとの懸念が指摘され、ワイヤレス装置に変更されたものである。
要は、IOBはもちろん、政府が主導するかたちで開発、実験が進むさまざまな新技術への期待は高まる一方であるが、その安全対策はまだまだ開発途上なのである。新型コロナウィルス用のワクチンも同様であるが、思わぬ副作用や危険性も潜んでいる。くれぐれも慎重な対応が欠かせないだろう。
著者:浜田和幸
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