2024年11月23日( 土 )

混迷深まる資源大国ペルー:大接戦の大統領選挙

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年6月11日付の記事を紹介する。

ペルー イメージ ペルーといえば、日系移民も多く、世界初の日系人大統領となったアルベルト・フジモリ氏を誕生させた国である。31年前の1990年6月10日のことだった。日本を何度も訪れたフジモリ大統領だが、汚職と人権侵害の罪で禁固25年の判決を受け、現在は服役中の身となっている。

 右派政党を代表する娘のケイコ・フジモリ候補(46歳)であるが、今回の大統領選挙で当選すれば、父親に恩赦を与えて刑務所から解放すると表明。まだ最終結果は出ていないが、開票率98%の段階で、左派政党を率いるペドロ・カスティジョ候補(51歳)がケイコ・フジモリ候補に10万票ほどの差を付けてリードしているようだ。

 実は、ペルーには友人や知人が何人もいるのだが、皆、口をそろえて「今回ほど難しい選挙はない」と連絡してくれる。ペルーでは過去3年間に大統領が4人も変わるという政情不安が続いているのだが、直近の大統領のうち7人が汚職で有罪判決を受けたり、自殺しているという非常事態そのものといえるからだ。

 その上、10万人あたりの新型コロナの感染者数や死者数では世界最悪の記録を更新しており、政治、経済、医療などあらゆる分野で難問が山積している。ペルーに限らず、南米はブラジルも含め、各国でコロナが猛威を振るっており、経済危機との二重苦で例外なく社会不安が高まる一方だ。コロナの感染対策も後手後手に回り、死者数も計算間違いが発覚した結果、急に3倍に増え、世界最悪となってしまった。

 田舎の小学校の教員であったカスティジョ候補はゲリラ組織「シャイニング・パス」との関係が深いとされ、熱烈な共産主義者に他ならない。無名の存在であったが、貧富の格差が拡大するなかで、大きなエンピツをシンボルマークに「教育の大切さ」を掲げることで、突然、人気を博することになった。コロナの感染拡大に際しても医療体制の不備や地域間格差が問題となったこともカスティジョ候補の追い風となったに違いない。

 他方、ケイコ・フジモリ候補は「フジモリ・ファミリー」の一員として、3度目の大統領選への挑戦となった。知名度は抜群であるが、以前からマネーロンダリングや汚職の捜査対象となっており、昨年には収監されたが保釈されたばかり。今回、当選できなければ、父親と同じように刑務所入りが確実視されている。

 確かに、「どちらを選ぶべきか。かつてないほど難しい選挙だった」ことは間違いなさそうだ。とはいえ、「カスティジョ候補有利」との報道がなされると、フジモリ候補は「集計に不正が行われた可能性が高い」と、どこかの大国で聞いたような決まり文句を発している。

 まだまだ混乱が続きそうなペルーである。しかし、日本ではあまり認識されていないが、この国は世界有数の「資源大国」という側面を秘めている。金、銀、銅、亜鉛などはとくに埋蔵量が多い。

 問題はこうした資源は山岳地帯に眠っているため、その採掘や運搬が難しく、しかも、ゲリラ組織が陣取っているため、思うような開発ができていないことである。もし、これらが有効活用できるようになれば、ペルーは間違いなく急成長を遂げるに違いない。

 今回の大統領選挙期間中も、マルクス主義を標ぼうするカスティジョ候補や支持者たちは「豊かな国になれるはずだが、貧しいままなのは特権階級のせいだ」と訴えた。彼らは250年前にスペインから独立を主導したトゥパク・アマル2世の肖像画を掲げて「地方からの革命」をアピールした。その主張は「市場経済の破棄」であり、貧しい農村部では支持を集めることになった。

 当然ながら、経済界からは反発や警戒感も高まった。フジモリ候補は「共産党政権が生まれれば、ペルーは独裁者が支配するベネズエラの二の舞になる。下手をすれば、ペルーの経済基盤が破壊される」と主張し、都市部の支持を確保する選挙戦を展開したものだ。また、「各地で頻発する暴力やテロ行為を煽っているのがカスティジョらのテロ組織だ」と断定し、「取り締まるためには強硬手段も欠かせない」とまで危機感を煽る戦術に走った。

 いわば、「既得権を代弁するフジモリ」対「貧困層の代弁者カスティジョ」という構図が生まれたのである。ペルーではいまだに富裕層の間では旧宗主国スペインの言葉であるスペイン語が話されている。一方、地方の貧しい国民の間ではケチュア語が使われており、言葉による国家の分断も解消されていない。

 要は、誰が国家の最高指導者になっても、克服すべき課題は多いというのがペルーの現状である。しかし、希望がないわけではない。すでに述べたように、国内には未開発の地下資源が大量に眠っているからだ。アメリカや中国も、そうした貴重な資源の山に関心を寄せている。

 こうした天然資源を国民のために開発、活用するビジョンを打ち出し、国際的な協力体制を組むことができれば、ペルーは必ずや大変身を遂げるだろう。日本としても、大いに支援、協力する価値があると思われる。


著者:浜田和幸
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