2024年12月23日( 月 )

激化する米中対立、主戦場はネット上の情報戦

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年6月25日付の記事を紹介する。

   米中の対立は激しさを増す一方である。巷間、「新冷戦」とまで揶揄される状況になってきた。日本にとっては、政治、経済、安全保障などあらゆる面で影響が大きく、現状の危機的状況がエスカレートすれば、最も深刻な結果に直面することになるだろう。

 トランプ前大統領は中国の野心的動きを封じ込めるために、強いアメリカの復活を目指し、ある意味では単独で中国と対峙しようと試みた。しかし、バイデン大統領はアメリカ一国では難しいため、同盟国を巻き込んでの中国包囲網の構築に舵を切ったようだ。

 菅総理も参加した先の英国でのG7サミットしかり、また、これから開催されるイタリアでのG20会合も同様である。新型コロナウイルス対策と並ぶ最重要課題が中国問題という建付けになっている。

 来る7月1日には共産党の創建100周年を盛大に祝う予定の中国なのだが…。「宇宙大国」を標ぼうする習近平国家主席は独自の宇宙ステーション建造のために宇宙空間で作業中の3人の中国人宇宙飛行士に電話を入れ、その貢献を称えると同時に、内外に向けて中国の技術力をアピールした。また、「中国の宇宙ステーションは世界に開放する」とも強調。

 これまで宇宙空間はアメリカが圧倒的な影響力を維持してきたが、財政的な限界に直面し、自前の宇宙ステーションの維持、管理は困難になっている。トランプ前大統領が決定した「宇宙軍」の創設も思ったように進んでいない。アメリカの衰退に付け込むかのように、中国が資金と人材を投入し、通信網や軍事的な応用も視野に入れた宇宙開発に乗り出したわけで、アメリカも気が気でないようだ。

 バイデン政権としても中国の動きを阻止しようと、国際社会に向け、「中国の危険な動き」に警鐘を鳴らし、一致協力して対中包囲網を構築すべくあらゆる手段を総動員する考えに違いない。

米中対立 イメージ そんな中、米中関係にとって新たな火種となり得る「想定外の事件」が発生した。中国国家安全部の董経緯副部長がアメリカに亡命したというのである。去る2月のこと。バイデン政権の発足を待っていたかのような展開だ。董氏といえば、中国の対外諜報活動の責任者にほかならない。

 そんな政府の高官が、武漢が発生源といわれる新型コロナウイルスに関する情報や中国の対米工作の実態を明らかにする機密情報を携えて、娘とともにアメリカに亡命したとは。事実だとすれば、アメリカに亡命した中国人のなかでは最高位の存在となる。

 先にアンカレッジで開催されたバイデン政権下では初となる米中の外交トップによる協議の場でも、この董氏をめぐるやり取りが交わされた模様だ。引き渡しを求める中国側に対してアメリカ側は「そのような事実はない」と断固拒絶したとのこと。実際には、ブリンケン国務長官は董氏が亡命したことを知らなかったようだ。

 何しろ、董氏が持参した資料のなかには「人民解放軍が関与しているとの指摘もある武漢ウイルス研究所の実態や感染の隠蔽工作」はもとより、中国マネーを受け取ったアメリカの政府や議会の関係者リスト、そして、現在、アメリカで潜伏中の中国人スパイに関する情報などが含まれているらしい。

 さらには、バイデン大統領の息子ハンター・バイデン氏が関わった中国ビジネスの闇の部分に関する資料も含まれている模様だ。バイデン大統領とすれば、今でも尾を引く息子の対中ビジネス疑惑を払拭するためにも、中国への対応は厳しくせざるを得ないものと思われる。

 バイデン政権がアメリカの諜報機関に対して90日と期限を切って、武漢ウイルスに関する再調査を命じた背景にも、董氏のもたらした情報が影響したものと思われる。アメリカ政府の内部に深く浸透している中国の影響があまりにも深刻なため、亡命を受け入れた国防総省情報局(DIA)ではその真偽を見極める作業を加速させているという。

 というのも、中国に情報を流してきたアメリカ政府の人間は国務省やCIAなど多岐にわたっているようで、バイデン政権も慎重な対応を迫られているためである。隠蔽されてしまう可能性もあったため、DIAでは国務省にもCIAにも董氏の亡命に関する情報は流してこなかった。そのため、先のアンカレッジ会合ではブリンケン国務長官は寝耳に水状態だったという。

 とはいえ、この亡命事件は「でっち上げのフェイクニュース」との指摘もある。なぜなら、中国の国家安全部では「董氏は6月18日に開催されたスパイ摘発のセミナーに出席していた」と主張しているからである。しかし、そのセミナーについては場所も明らかにされず、董氏ら出席者の写真も一切、公開されていない。

 もし、董氏が現在も中国で責任ある立場で仕事をしているのであれば、その写真を掲載すればすむ話で、アメリカの偽情報を瞬時に打ち破ることができるはずだ。それをしないので、疑心暗鬼は深まるばかりである。実は董氏の娘は「アリババ」の役員の妻であった。創業者のジャック・マー氏は政府批判がもとで言動に制約が課されているようだ。そうした動きとも水面下でつながっているようにも思われる。

 いずれにせよ、米中の情報戦が過熱していることは疑いようがないだろう。台湾海峡をめぐる動きもきな臭い限りである。中国軍による挑発行為はエスカレートを続け、アメリカ軍も空母や護衛艦を頻繁に派遣し、オーストラリアや日本との合同演習を強化させている。

 しかし、先のASEAN外相会議でも示されたように、アセアン諸国はこうした米中の対立激化を懸念し、双方に対話と和解の機会をもつように要請している。バイデン大統領はプーチン大統領との首脳会談を終えたばかりだが、「古き友人」と呼び合う習近平国家主席との対面首脳会談がいつ行われるのか、いまだ明らかになっていない。「平和の祭典」ともいわれる東京オリンピックがその場となることはなさそうだ。


著者:浜田和幸
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