2024年07月16日( 火 )

【福岡県知事インタビュー】コロナ危機を乗り越えて~「選ばれる福岡県」を実現する(3)

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福岡県知事 服部 誠太郎 氏

 今年3月24日、病気治療のため3期目途中で辞職した小川洋・前福岡県知事の後継として、4月11日の県知事選で当選をはたした、前副知事の服部誠太郎氏(66)。それまで総務省から任命されてきた財政課長に県政史上初めてたたき上げから抜擢され、その実力は県政関係者の誰もが認めるところだった。選挙戦を経て県知事に就任した服部氏。「小川県政の継承」とともに、まずは新型コロナ対策でその手腕が試されるかたちとなっている。

(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 児玉 直)

 ――福岡県が国内屈指の元気な自治体であることは確かです。ただし、県知事としては県全体を俯瞰して見る必要がありますよね。人口が増えているのは福岡市とその周辺地域であり、それ以外の地域では人口が伸び悩み、さらには高齢化が進み、地域社会が弱っているという指摘もあります。その地域の商店街を見れば明らかですが、まちの活気がほとんど失われてしまいました。

 服部 福岡市は、高島(宗一郎)市長のリーダーシップの下で大きく発展して元気があります。福岡市の元気を各地域に波及させる必要もありますが、見方によっては、福岡市にそれ以外の地域の人材が吸い寄せられている面があるわけです。そうすると福岡都市圏以外の人口は減少し、高齢化・過疎化が一層進む。知事選で各地域を回ったときにも、同じようなお話を聞きました。

 そこで、県のなすべきことは、県民の皆さまがそれぞれの住み慣れた地域で働き、暮らし、結婚して子どもを産み育てることができる地域づくりです。そのために、企業誘致も県内で偏在しないように地域的なバランスを考えていかないといけませんが、その際、交通インフラも非常に重要になってきます。

 2019年に資生堂が久留米市に新工場を建てることを決定しました。この案件については私も最初から携わりましたが、資生堂がなぜ久留米を選んだかというと、朝倉インターまで10分ほどで行けるアクセスの良さ、工場から博多港までの輸送に1時間ほどしかかからない点です。つまり、スキンケア商品を博多港から中国や韓国向けに輸出することができる立地であり、さらに久留米市のような人口の多い後背地があると、工場で働く人材の継続的な確保が見込めます。また、工場を建てる際には消防法などクリアすべき問題がいくつもありましたが、県がそれらをクリアするためのバックアップ体制を整えていた点も高く評価していただきました。これらは企業と一緒にやっていくうえでは非常に大切なことです。現在、トヨタ自動車九州の付近の宮若市北部で工業団地の造成に向け取り組んでいます。このように、市町村と連携しながら基盤整備をしていくことも必要です。

 ――県知事選で県内を回って実感されたと思いますが、福岡県というのは思っている以上に広大です。風土も違いますから、バランス良くテコ入れするのは大変ではないでしょうか。

 服部 地域によって産業の特性があります。たとえば、県南であれば、やはり農業を伸ばしていかなければなりません。農業というのは福岡県にとって基幹産業です。若い人たちが農業にプライドを持ち、夢を持って参入してもらえるような稼げる産業にしていかなければなりません。そのために出口を広くし、販売先を確保する必要があります。

 副知事時代から農林水産業に携わるなかで感じていたのは、生産現場を強くすることはもちろん必要ですが、いわゆる「プロダクトアウト」(製品・商品先行型の企画)だけで生産していては駄目だということです。福岡市、北九州市、久留米市という大きな消費地が近く、比較的作れば売れる状況にはあります。しかし、今後人口減少、高齢化が進むなかで、価格が伸びなければ生産の維持は難しくなりますので、収入を増やすために、さらに付加価値を高めて売る必要があります。そのためには、ブランド化に取り組み、ブランドを生かした販売戦略やマーケティングが大切です。プロダクトアウトの逆、「マーケットイン」(市場が求めるものをつくる)の考え方が必要になります。

 そして、出口と生産現場の二本柱、この間の循環、すなわち情報の流通をやっていこうとしています。小川前知事の時代に、県産品の売り込み部隊を東京と大阪に配置したのですが、一流のホテルやレストラン、伝統ある和食店では福岡の農林水産物の評価が非常に高いことがわかりました。そのことを生産現場に伝えると、自分たちがつくった農林水産物が東京や大阪の一流のお店で使われているんだというプライドが生まれます。さらにはもっと良いものを生産し、出荷しようというやりがいも湧いてきます。そうすることで、さらに評価が上がり、また取引高が増えていく、こうした良い循環をつくっていく。

 単に産地フェアを行って「福岡」という名前の認知度を上げればよいということではありません。取引高を増やさなければ生産者の所得は上がりません。こうした良い循環によって生産現場が強くなっていき、農家に規模拡大やスマート農業を進めるための先進的な機械を入れる力もついていきます。このように、農業の未来を見据えた政策を進めていきます。

<プロフィール>
服部 誠太郎(はっとり・せいたろう)

1954年生まれ。北九州市出身。福岡県立小倉高校を経て77年に中央大学法学部卒業。同年、福岡県庁入庁。2004年総務部私学学事振興局学事課長、06年総務部財政課長、09年総務部次長、10年福祉労働部長、11年10月福岡県副知事。21年4月、小川洋・前知事の辞職にともなう県知事選挙(4月11日投開票)で初当選、公選第20代福岡県知事就任。

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