2024年12月24日( 火 )

長崎・小浜温泉、未利用温泉で約220世帯分の地熱発電~雲仙市は地熱の保護・活用条例も(後)

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 長崎・雲仙岳の麓にある小浜温泉には、温泉水を利用した地熱発電「小浜温泉バイナリー発電所」がある。約30もの源泉がある小浜温泉では、温泉水の約7割が使われずに海に流されていたため、再生可能エネルギーとして活用している。地熱資源が豊富な日本で、地元の温泉産業と共存できる地熱発電の可能性を探る。

雲仙市の地熱資源の保護・活用条例

小浜温泉の蒸し釜
小浜温泉の蒸し釜

 雲仙市では3月、「雲仙市地熱資源の保護及び活用に関する条例」を施行した。温暖化対策として、経産省は「2030年までに地熱発電を約3倍まで増加させる」という目標を掲げて地熱発電を推進し、規制緩和を行っている。このため、再エネに注目が集まり、地熱発電所開発に向けた調査・計画が増えるなど、事業者の動きが活発になっている。

 雲仙市役所の佐々木裕氏(環境水道部環境政策課新エネルギー推進班)は、「市としても条例に基づいた地元説明などの手続きを促すことで、温泉に影響が出ることを防ぎ、地元の人々も納得して地域と共生できる事業計画とすることが目的です。持続可能性を考えて、地域の地熱資源を活用したいと考えています」と語る。

小浜温泉は島原半島のなかでもマグマ溜まりに最も近い
小浜温泉は島原半島のなかでもマグマ溜まりに最も近い

 小浜温泉は島原半島のなかでも、温泉の源であるマグマ溜まりに最も近く、1980年代から国による地熱発電の調査が行われてきた。長崎県では、源泉の1km以内は地熱発電のための新たな掘削を認めておらず、掘削を行う場合は源泉所有者全員の同意が必要であるが、1km以上離れると温泉の源泉所有者の同意は必要ない。

 そのため04年には、小浜町とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が開発主体となり、地熱発電所(1,500kW)の開発に向けた地熱開発推進調査が源泉から1,050m離れた場所で計画されたが、温泉への影響を懸念した地元で反対運動が起こり、長崎県は掘削許可を出さなかった。

 一方、当時は反対した地元の人々も、小浜温泉バイナリー発電所の設置は使われていない温泉水を活用するものであり、新たな井戸を掘らないため温泉への影響が懸念されないことなどから、推進側になったという。新たな地熱発電所の建設では、今後も地元との共生が課題となるだろう。

雲仙市内での開発計画と資源保護

 1980年代から行われてきた国の調査などにより、小浜温泉の温泉街から離れた地域の地下に高温の熱源があることがわかり、地熱発電所の開発に向けた調査が計画されてきた。地熱発電所は地熱資源の調査から始まり、発電所ができるまでの開発期間が10年以上と長い。

雲仙市役所環境水道部環境政策課新エネルギー推進班・佐々木裕氏
雲仙市役所環境水道部環境政策課
新エネルギー推進班・佐々木裕氏

 「地熱発電による開発の影響は、隣接する地域であっても大きく、事情が異なり、既存の温泉法では地熱の発電利用が想定されていないため、地方行政が調整することが必要だと考えてルールづくりに乗り出しています」(佐々木氏)。

 雲仙市の条例では、地熱資源の調査や温泉法による申請、発電設備の設置工事などを行う場合には、発電事業者は事前に地域関係者へ説明し、それらの意見を踏まえたうえで事業計画を雲仙市に提出して、市の同意を得ることが必要とされている。地熱資源の利用は地域全体に関わるため、温泉旅館や源泉所有者、国立公園内の観光事業者など、地域の関係者が事業の適切性や地域への影響について発電事業者から話を聞き、議論ができる場を広く設けることを求めている。

 地元住民の意見がまとまった段階で、専門家などで組織する協議会で調査・審議し、出された意見を基に事業計画への同意の可否を市が決定する。「発電事業者のみにメリットがある開発計画は地元住民に賛成してもらえないため、地域へのメリットや地域との調和を考えるきっかけになればと考えています」(佐々木氏)。

 雲仙市では、地熱資源保護・活用の議論の判断材料とするため、昨年度から源泉の温度や成分などの定期的なモニタリングを開始し、目に見えない地下の構造や温泉の成り立ちを電磁波によって調査するなど、地域の地熱資源のデータを蓄積している。今後はそうしたデータを活用しつつ、持続可能な資源活用のかたちを地域協議のなかで探っていくことになる。

(了)

【石井 ゆかり】

(前)

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