危機感が漂う韓国経済(後)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏
サムスン電子はメモリ半導体の業績が好調で、21年第2四半期に米国・インテルを追い抜いて、世界一の座に返り咲いた。サムスン電子の業績は今のところ順調で、111兆ウォン(約10兆3,957億円)以上の現金も保有している。しかし、絶好調に見えるサムスン電子にも、さまざまな不安材料がある。
ウォン下落が株式市場を直撃
ウォンの対ドルの為替レートは10か月ぶりに高くなり、経済危機に対する警戒感が強まっている。米国では新型コロナウイルス感染拡大による経済や金融市場を安定させるため、2020年3月に米連邦準備理事会(FRB)は大規模な金融緩和を実施した。最初は政策金利の引き下げを行い、結局は量的緩和政策の実施も開始した。
ところが、物価の上昇圧力がかかったり、インフレの懸念が高まることによって、米連邦準備理事会(FRB)では徐々にテーパリングを準備しているという噂が市場に流れるようになった。テーパリングとは「先細り」を意味する「taper」から派生した言葉で、中央銀行が実施してきた金融緩和政策を段階的に引き締め、終わりに向かわせる手法のことを指す。
アジアの通貨市場がこの影響を受けて7月から不安定に推移している。米国のドル高が予想されると、新興国の通貨が不安定になるのはいつものことであるが、韓国ウォンは1.7%程度と他の通貨に比べて大幅に下落した。
通常、外国人投資家はウォン・ドルの為替レートが上がると、為替損失を恐れて韓国の株式は売却する。ところが、サムスンの業績の先行きが不透明になると株式が売却されることが、為替レートを一段と上げる要因となっている。
為替レートが急激に上昇すると、韓国では経済危機がまた到来するのではないかと恐れられており、国民の不安が募っている。FRBのクリストファー・ウォラー理事は、「早ければ10月から債権の購入は減らす可能性もある。9月にはテーパリングの準備に入るようになるだろう」と、来年ではなく、今年の秋に金融緩和策が縮小されることを匂わせている。外国人投資家は12、13日の2日間にわたり、韓国株式市場で時価総額1位のサムスン電子と2位のSKハイニックスの保有株式を、それぞれ4兆ウォン(約3,743億円)、1兆ウォン(約935億円)ずつ売却した。
デルタ株によるコロナ感染者の増加
韓国の1日当たりの新規感染者数は、7月に入り1,000人を超えた。韓国政府の厳しい規制にもかかわらず、感染拡大の勢いは止まらないため、当局は困惑している。新規患者数は8月19日に2,051人を記録し、レベル4の規制は2週間延長された。
ところが、韓国のワクチン接種完了率は15%で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では最下位であり、韓国では他の先進国に比べてワクチン接種が遅れている。ワクチンの接種が遅れるなかで感染者が増加すると、医療の逼迫(ひっぱく)を防ぐために、人の外出を制限せざるを得ない。規制がかけられると消費は落ち込み、景気の停滞の懸念が高まる。
このことが韓国経済の発展の阻害要因となりつつある。韓国の最大の商圏である明洞、江南も深刻で、夜になると以前のような活気はまったく見られない。その結果、小売、宿泊、飲食などサービス業をはじめとする非製造業には、下押し圧力がかかっている。
懸念されている労使問題
財閥系の大手造船メーカーである現代重工業では、経営者と労働組合の対立が先鋭化し、韓国経済の先行きに影を落としている。韓国の労働組合は過激であり、外国企業が韓国進出を考慮する際の懸念材料となっている。企業の海外進出が可能な今の時期も、その慣行はなくならず、韓国の経営者を悩ませている。
現代重工業では7月6日、全面的なストライキが実施された。それは、19年から20年の賃金交渉が解決していないことによる対応だという。現代自動車などの労使紛糾は今でも時々、マスコミを賑わせている。韓国経済は今のところ半導体や造船の輸出好調に支えられて堅調に推移しているが、上記の課題も抱えており、経済危機が再び訪れるではないかと一部では懸念されている。韓国経済の今後の展開については、経済のこれからの動きを見守る必要があるようだ。
(了)
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