2024年10月20日( 日 )

アフガニスタン、タリバンは旧政権との違いを示せるか

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 16日、アフガニスタンの首都カブールをイスラム原理主義勢力のタリバンが制圧した。アシュラフ・ガニ大統領は海外(アラブ首長国連邦)へ出国し、旧タリバン政権(1996~2001年)崩壊後の01年から約20年続いた民主政府のアフガニスタン・イスラム共和国が崩壊した。タリバンは19日、アフガニスタン・イスラム首長国の成立を宣言した。

タリバン支配への懸念

 旧タリバン政権はイスラム法の厳格な法解釈を施行し、宗教的・民族的少数派を差別し、女性の就業および教育を受ける機会を制限したほか、虐殺、民間人への国連の食糧供給拒否、国土の焦土作戦などを行った。文化浄化として世界遺産のバーミヤン遺跡の仏像など多くの記念物を破壊した。

 国民にとって旧タリバン時代はいわば悪夢の5年間であった。タリバンが再び政権を掌握したことにより、同様の事態が再び起こると懸念されており、実際に多くの市民が国外に脱出しようとカブール空港に殺到している。

 タリバン側もこうした懸念は承知しているようで、国民全員に恩赦を与えることにより、民主政府関係者への粛清が行われるとの懸念を払拭しようとしている。ただ、米軍への協力者の捜索を行っており、国民が安心できる状況には程遠いようだ。

 タリバンは民主政府の幹部、地方の州知事経験者らと話し合う姿勢も見せている。タリバンは首都を含め国土の7割近くを掌握しているが、カブール陥落後に地方の軍閥がタリバンに対して反攻に出て、支配地域の奪還に成功したケースもあるなど、国内を完全に掌握しているわけではないためだ。

旧政権との違いを示せるか

 旧タリバン政権は、イスラム法に基づき厳しく社会を管理していた。当時、アフガニスタンはイスラム原理主義の国際テロ組織・アルカイダが拠点を築くなど、テロ組織の「聖域」となっていた。国際社会がそうした状況を容認することはなく、旧タリバン政権を承認した国家はパキスタン、サウジアラビア、UAEの3カ国のみであった。

 現在のタリバンはイスラム主義に基づく国家建設を志向している点で従来と変わりはないものの、過去の失敗に学び、国際社会の視線を以前より強く意識している点で異なっている。カブール制圧後、最初に行った17日の記者会見では、イスラム法の枠組みにおいて女性の権利、報道の自由を認めるとしたほか、前述したように民主政府などと対話しようとしている。

 また、アフガンが国際テロ組織の温床となることへの国際社会の懸念を払拭しようと努めている。タリバンはアルカイダを庇護してきたと指摘されているが、タリバンの報道官は22日、アルカイダとのつながりを否定し、2020年2月に米国との間で署名した「和平合意」の項目の1つである「タリバンはアフガニスタン国内でのテロ活動を許さない」ことを守り、過激派グループに国土を使わせないと述べている。

国際社会は注視を

 各国とも現状ではタリバンの今後の動向を見極めようとしている。米国は女性に対する人権擁護とテロ対策を注視する姿勢を示すなど、西側諸国は承認に慎重な姿勢をとっている。中国とロシアは在カブール大使館に外交官を残し、タリバンへの影響力を確保しようとしている。アフガンと新疆ウイグル自治区で国境を接する中国は、タリバンの今後の動向次第で承認を検討するとしている。

 アフガンの1人当たりGDPは470米ドル(19年、国連)で、日本を含む西側諸国からの援助もあって、旧タリバン政権期の01年の167米ドル(同)からは増えているものの、依然として貧困国のままだ。タリバンが国民の支持を得るためには経済建設が必要であるが、日本を含む西側諸国からの援助が失われたためにより困難となっている。日本などが人道支援を実施するにしても、タリバンを承認し、協力を得られることが前提となる。

 タリバンはアフガンの全地域を支配下に置いた後、イスラム主義志向を前面に押し出そうという誘惑に駆られるかもしれないが、今後、国内において融和姿勢、対外的に国際協調主義的な対応を取り続けるよう、国際社会は注視していく必要がある。

【茅野 雅弘】

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