ポストコロナの名の下に 国内中小企業再編の動き(前)
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コロナ禍の影響や経営者の高齢化により、中小企業の廃業リスクが高まるなか、経済産業省は技術や人材を引き継いでいくために、M&Aを活用した規模拡大・新事業展開を後押しする「中小M&A推進計画」を取りまとめた。今後は銀行法改正による外資誘引も相まって、国内中小企業再編の動きが加速すると予想される。
コロナ禍の影響は限定的
コロナ禍による経済への影響はどの程度か。業種業態によって影響は異なるため、全体状況を正確に把握することは困難だが、その傾向をつかむために中小企業の業況判断DIを参考値とする。
中小企業の業況判断DIは、(独)中小企業基盤整備機構が「中小企業景況調査」として取りまとめたもの。全国の商工会・商工会議所の経営指導員と中小企業団体中央会の調査員が、中小企業基本法で定義される全国の中小企業約1万8,920社を訪問面接し、聞き取りによって集めた統計指標である。
今年4-6月期の調査結果を見ると、有効回答企業(1万8,245社、有効回答率96.4%)の業種別構成比は製造業(24.5%)、建設業(12.9%)、卸売業(6.1%)、小売業(24.3%)、サービス業(32.2%)。中小企業の業況判断DIは、2014年4月の消費税率引き上げ直前をピークに低迷。その後、19年10月の消費税率引き上げで頭打ちとなり、20年第2四半期はコロナ禍による経済社会活動の停滞から業況判断DIは大幅に低下した。
ところが、20年第2四半期の危機的状況からはすでに脱しており、とくに製造業は消費税率引き上げがあった19年第3四半期の水準にまで回復。産業全体でも19年第4四半期の水準近くまで回復しており、コロナ禍による受難が意外にも根深いものではないことを示している。中小企業の売上額DIと採算(経常利益)DIの推移についても同様のことがいえる。
業種別の業況判断DIによると、とくにサービス業の回復に遅れが見られるものの、製造業のパルプ・紙・紙加工品、鉄鋼・非鉄金属、金属製品、輸送用機械器具などは、21年第2四半期現在でコロナ禍によるネガティブな影響から脱しつつある。このことから、連日のコロナ感染拡大報道のインパクトほどに足元の状況は深刻でなく、「想像以上にコロナ禍の影響は限定的である」といえる。
再構築志向の政策
では、経営環境が従来のような日常に戻るのかというと、そう単純な話ではない。なぜなら、業況としては回復を見せながらも、コロナ禍による財務の毀損が確実に企業経営にダメージを残すなか、足元では原材料価格が高騰、これに加え、21年10月に最低賃金3.1%引き上げと社会保険適用範囲の拡大、23年10月からは商取引における徴税強化を図るインボイス制度の導入など、中小企業ほど重い負担となる政策が予定されているからだ。
これを「中小企業の質的転換が国内産業の持続的な成長につながる」とする政府方針に照らし合わせれば、中小企業再編による企業数の削減は、政府が目指す未来社会の姿なのかもしれない。政府はコロナ禍においても、事業環境の変化に合わせて新製品の開発や新事業分野への進出など柔軟な対応ができる企業ほど回復が早いとし、今回の変化を転機と捉え、顧客のニーズや自社の強みに着目して事業を見直すことを促進する政策を推し進めている。
中小M&A推進計画
中小企業庁は4月28日、「第6回中小企業の経営資源集約化などに関する検討会」を開催し、経営資源集約化を推進するため、今後5年間に実施すべき官民の取り組みを「中小M&A推進計画」として取りまとめた。
これは、経営者の高齢化やコロナ禍の影響に対応するため、中小企業の貴重な「経営資源の散逸の回避」、事業再構築を含めた「生産性向上等の実現」「リスクやコストを抑えた創業」の3つの観点から中小M&Aを促進するというもの。言い換えれば、「価値ある事業については、生産性の高い事業者が引き継ぎやすいように環境整備する」ということだ。
中小M&Aは現状で年間3,000~4,000件実施されており、潜在的な譲渡側は約60万社と試算されるほどの巨大なテーマだ。中小企業庁は今後、全国規模の官民のマッチングネットワークを構築するとともに、M&A後の統合プロセス支援や中小企業向けファンドによる支援を拡充するなどの手厚い方針を決定している。
(つづく)
【児玉 崇】
法人名
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