クルークス魔球一閃、王者狩り~アビスパ福岡1-0川崎F
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サッカーJ1リーグのアビスパ福岡は25日、ホームのベスト電器スタジアムに川崎フロンターレを迎え、第26節の試合を行った。
アビスパは第24節セレッソ大阪戦の勝利で、長く続いた勝てないループからようやく抜け出したものの、第25節では名古屋グランパスに敗戦。なかなか調子の波に乗り切れない。
川崎フロンターレは、ここまで19勝6引き分け0敗で首位。日本代表のMF三笘薫、MF田中碧が海外移籍して戦力ダウンかと思われたが、その強さに陰りはない。昨シーズンを圧倒的な強さで制した無敗の王者に対し、アビスパがどう立ち向かうのかに注目が集まる一戦となった。
アビスパのスターティングメンバーは、前節から9人を入れ替える大胆な布陣。今シーズン出場機会に恵まれていない選手も多い。中2日という過密日程を考えると当然ではあるものの、一抹の不安を抱いたサポーターも少なくなかったのではないだろうか。
アビスパを率いる長谷部茂利監督が、大幅なメンバー入れ替えを行った試合についてのコメントで、口癖のように繰り返していた言葉がある。「ターンオーバーはしていません。今ベストの選手をフィールドに送り出しました」。この日の試合は、王者・川崎を相手にこの長谷部監督の言葉を実証するゲームとなった。
フォワードで先発の座をつかんだのは、アビスパのレジェンドFW城後寿とFW渡大生。2人は序盤からエンジンフル回転でプレスに走り、川崎のDF陣にプレッシャーをかけようとする。
だが、川崎の強みはGKからFWまですべての選手が「ボールを止める・蹴る」という基本技術に圧倒的に長けていること。プレスを受ければ、ほかのチームであれば焦ってパスミスを犯すところだが、GKチョン・ソンリョン、DF山村和也、DF車谷紳太郎らはまったく動じず、正確なパス回しを続ける。
川崎はDFラインから中盤の底に控えるMFジョアン・シミッチを経由して前線のFWレアンドロ・ダミアン、FW家長昭博、MF旗手怜央ら強力な攻撃陣にパスを送り、分厚い攻撃を仕掛けるスタイル。城後と渡の必死のプレスもなかなか型にはまらず、川崎ペースで試合は進んでいく。
31分、FWレアンドロ・ダミアンが強烈なシュートを放つが、福岡GK村上昌謙は渾身の好セーブ。続くCKも村上がクリアし、アビスパは相手の決定機に身体を投げ出して防ぐシーンが続く。前半終了直前にも川崎が怒涛の波状攻撃を仕掛けるが、最後の最後でゴールを守り切り、後半に突入した。
後半は、サイド主体に攻撃を仕掛ける川崎に対し、厳しいプレスをかけるアビスパという図式でスタートした。53分には城後が川崎のGKへのバックパスを猛追し、相手GKと交錯する一幕も。勝利への闘志を見せつけた。
62分、長谷部監督が動く。城後、渡、MFカウエに代え、FWジョン・マリ、FW山岸祐也、MF前寛之を投入。ここまで献身的なプレーを見せた3人には、ベススタから惜しみない拍手が送られた。
63分には川崎も交代カードを切る。MFシミッチに代えてDFジェジエウ、FW宮城天に代えてMF長谷川竜也がピッチに入る。DF山村がシミッチの位置、ジェジエウは最終ラインに入った。
両監督が決断したこの交代で、ゲームの流れは大きく変わる。63分にはFWジョン・マリ、64分にはMF杉本太郎が連続してシュートを放つ。
そして65分、奇跡の瞬間が訪れる。スローインからのパス交換で中央に侵入したMF杉本がシュート。これは相手DFにあたってはね返る。このこぼれ球を右サイドで拾ったMFジョルディ・クルークスは、川崎MF長谷川竜也のマークを受けながら、落ち着いて左足を振り抜いた。GKに向かって鋭くカーブするボールは、ジャンプしたGKチョン・ソンリョンのセーブも及ばず、ゴールネットに突き刺さった。
耐えに耐えた前半、選手交代から一転して攻勢に出た後半。ついに王者川崎に「ハチの一刺し」を叩き込む一撃だった。
さらに68分には、中央のMF重廣卓也から左サイドのMF杉本にグラウンダーのパス。杉本がこれをダイレクトで前方に流すと、走り込んでいたMF前がDF志知孝明に戻し、志知のクロスをクルークスがダイレクトでシュート。ジャストミートこそしなかったが、川崎顔負けのパス交換からの攻撃を組み立ててみせた。
しかし、これで試合を諦めるような王者川崎ではない。MF家長をトップ下に置き、より攻撃的な布陣でアビスパ守備陣に襲いかかる。74分には昨シーズンアビスパに期限付き移籍で所属したFW遠野大弥がピッチに入り、さらに攻撃に重点を置く。
だが、アビスパはここにきてセカンドボールでも競り勝つシーンが増え、王者川崎相手に押し気味に試合を運んでいく。そして81分、長谷部監督は先制点を挙げたクルークスを下げて、5人目のDF・奈良竜樹を投入。「守り切って勝つぞ」という明確なメッセージをチームに送る。川崎はセットプレー時にGKチョン・ソンリョンが前線に上がるシーンも見られたが、最後までアビスパのゴールを割ることはできない。逆に88分には、MF金森健志がカウンターで一気に川崎ゴールに迫り、DF車谷がイエローカード覚悟のファウルで止める場面も。
そしてついにタイムアップ。不敗の王者・川崎に今年初めて土をつけたのは、アビスパ福岡となった。歓喜を爆発させるアビスパの選手たち、そしてがっくりとうなだれる川崎の選手たち。アビスパにとっては、出場機会が少ない選手たちとレギュラーをつかんだ選手たちが共に力を出し合ってつかんだ意義深い1勝となった。
上昇気流に乗ったアビスパは、次節は29日、ホームでヴォルティス徳島と対戦する。徳島はアビスパと同じ昇格組だが、現在は降格圏の17位に沈み苦闘を続けている。喉から手が出るほど勝ち点がほしいところだろうが、それはアビスパも同じ。さらなる高みに上るために、堅守からの攻撃で、連勝という結果をつかみたい。
そして、あえてほかのすべてのJリーグサポーターに向けていおう。「どうだ、これがアビスパのサッカーだ!」。
【深水 央】
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